ピアノレッスンのヒント集

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楽曲と教材〜教則本考察 プレ・インベンション

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プレインベンション J.S.バッハ・インベンション―のまえに
プレインベンション J.S.バッハ・インベンション―のまえに

バロック期の小品を集めた本で、「プレ・インベンション」という本の題名がつけられてとおり、バッハのインヴェンションに入る前にレッスンで使われることも多い曲集です。

バッハのインベンションの入る前に従来はバッハ「小プレリュードと小フーガ」や「アンナ・マクダレーナのためのクラヴィーア小曲集」などが使われることが多かったと思いますが、最近はバロック期の多くの作曲家の簡素な曲を集めた小曲集が人気です。
各出版社からいろいろなバロック小品集が出ていますが、今回はその中でも使用されることが多い全音楽譜出版社の「プレ・インベンション」を取り上げてみましょう。

「プレ・インベンション」という曲集名は全音楽譜がつくった曲集の名前であり、バッハの「インヴェンションとシンフォニア」とは直接の関わりはありません。ですから、バッハのインヴェンションの前には他の曲集や教本を使うこともできます。詳しくは、このページ下方の重要な補足説明もご覧ください。


プレ・インベンションの内容

概要

本の副題に「J.S バッハ・インベンション―のまえに」と書かれているように、インヴェンションに入る前に弾くための曲集ですから、初級者でも弾きやすいくらいの1ページから2ページくらいのバロック期の小品を中心にたくさんの曲が収められています。
J.Sバッハ(大バッハ)の小品他にも、テーレマン、レオポルト・モーツァルト(モーツァルト父)、ヘンデルなどのバロック期を代表する作曲家達の小品がたくさん収録されているので、多声音楽(複声音楽・ポリフォニー)の勉強の導入にとても役立ちます。

曲の長さと特徴

小品集ですので主に1ページから2ページくらいの短い作品が多いのですが、中には8小節程度の非常に小さな曲、そして曲集の後半には少し規模の大きめの変奏曲なども掲載されているので、バロック作品が初めての方から既にインヴェンションを弾いているような方も使える曲集です。
一口にバロック期の小品と言っても様々なタイプの曲が収録されているので、好みや実力、レッスンの進め方に応じて使用することができます。

各曲を見ていきましょう

全56曲の中から、比較的親しみやすく上達にも効果的で弾き応えのある曲をいくつか見ていきましょう。

1〜5 ローリー「小フーガ」
アレック・ローリーの小さなフーガ5曲です。
フーガのテーマを意識して弾くことが練習の重要ポイントになるのは当然ですが、テーマがそのままではなく少し形を変えて出てくるところにも注目です。
おすすめは「5番」
6〜10 クンツ「小カノン」
クンツのカノン5曲です。
メロディーを左右の手で追いかけっこするように弾くカノンですが、これくらいの簡素なカノンでも意外に簡単ではありません。左右の手のフレーズ感も大事に、特に左手もしっかり歌えるように弾きましょう。
おすすめは「9番・10番」
11〜15 テーレマン
バロック期の大作曲家であるテーレマンの小曲が5曲です。
リズム感のある曲が多いので、バロック時代の鍵盤作品の活き活きとした雰囲気を出せるように弾きましょう。
おすすめは「12番アレグレット・15番リゴードン」
16〜20 J・S バッハ 
ヨハン・セバスティアン・バッハ(大バッハ)の「アンナマクダレーナのためのクラヴィーア小曲集」の掲載の小曲が5曲です。
有名な簡素なメヌエットなどですが、使われている音の幅も幾分広くなって音楽の流れも素敵な作品達です。
おすすめは「18番・19番」
21〜26 大バッハの息子達
21番からの5曲は大バッハの息子達の小作品が並んでいます。少しだけ規模も大きな作品もあり弾き応えもあるでしょう。
おすすめは「22番アングレーズ・24番ブールレスカ・25番ブーレ」
27〜29 レオポルド・モーツァルト(父モーツァルト)
27番からの3曲は、有名なモーツァルトの父の作品です。簡素でありながらリズム感が素敵な作品ですから、そういった曲想をよく感じて弾きたいものです。
おすすめは「27番アングレーズ」
30〜31 アマデウス・モーツァルト
モーツァルトの小作品が2曲です。どちらも軽快なリズム感とフレーズ感を大事に。簡単な作品ですが余裕を持って表現できるように。
おすすめは「30番メヌエット」
32〜33 ネーフェ
ネーフェの小品が2曲です。
おすすめは「32番カンツォネット」。歌う要素の強い曲ですからレガートを大事に弾いてみましょう。
34〜51 バロック期の様々な作曲家たち
34番からの16曲はバロック期の作曲家の小品が1曲ずつ収められています。その中からいくつかのお薦め曲を見ていきましょう。
「35番 クリーガー メヌエット」 3拍子を感じやすいメヌエットです。丁寧に弾いてみましょう。
「36番 トゥルク アリエッタ」 とてもシンプルな中に美しさのある曲です。
「39番 A・スカルラッティ スケルツァンド」 歯切れの良いスタッカートで。特に左手の拍子感に注意。
「43番 キルンベルガー バレエ」 躍動感のある曲です。少し難しいですがよく練習して速めのテンポでまとめてみましょう。
「45番 パッヘルベル フーガ」 こうした小さなフーガに慣れると多声音楽が楽しくなります。
「48番 ヘラー カプリッチョ」 曲想が変化するところなど、よく考えて表現してみましょう。
「49番 コレッリ サラバンド」 バロックの巨匠コレッリの曲です。左手の流れを重視しましょう。
「51番 ハッセ 主題と変奏」 第4変奏までの小さな変奏曲ですが雰囲気のある素敵な曲で、変奏曲入門にいいでしょう。テーマがどのように変奏されているのか、しっかり楽譜を読むことが大切です。
52〜55 ヘンデル
52番からの4曲はバロック期の大作曲家ヘンデルの作品です。縦の線と横の流れが非常にうまく組み合わせっているヘンデルの作品は、このような小さな曲でも弾き応えのある曲となっています。
おすすめは「53番ブーレ・55番サラバンド」。ブーレは進行していくような拍子感が大切。サラバンドはヘンデルの作品の中でも有名な変奏曲形式の曲ですから、しっかり弾きましょう。
56 ハイドン
最後の56番はハイドンの変奏曲です。第6変奏までですから変奏曲としてはそれほど規模が大きい作品ではありませんが、このプレ・インベンションの本の中では7ページと最も大きな曲です。
細かい音符がたくさんあるので、一見譜読みが面倒そうな印象を持つかもしれませんが、実際には譜読みはしやすい曲で変奏曲としてもわかりやすい構成です。この曲集の総仕上げとしてしっかり弾きましょう。

特徴と有効性

バロック期の小さな作品を弾きながら、どのようなことが学べるのでしょうか。その特徴と有効性を見て行きましょう。

このプレ・インベンションは教則本や練習曲集ではないので、有効性や不満点を述べるのは少し違うようにも思いますが、以下に簡単にポイントを書いておきましょう。

バロック期の多声に親しむ
小さな作品も数多くありますが、カノンやリゴードン、メヌエット、ブーレー、ガヴォットなど、バロック期の作品にはお馴染みの形式や様式の曲に親しみながら学ぶことができます。易しく思えるこれらの作品でも、多声を意識してしっかり弾くことでピアノ演奏に大切な指と耳の連動にとても効果的でしょう。
使いやすい校訂と見やすい楽譜
本来はスラーやスタッカート、などのフレーズやアーティキュレーション、フォルテやピアノなどの記号の指示が無いのがバロック期の音楽なので初級者には特に弾きにくく感じる場合もありますが、このプレ・インベンションでは学習者にも弾きやすいように、校訂者によって適度に記されていますので使いやすいでしょう。
また音符が適度に大きめで見やすい楽譜なので、小さな子供でも使いやすいと思います。
指使い
この曲集は全体的に弾きやすくて無理のない指使いが採用されているので、このとおりの指使いで弾いてみることをおすすめします。手の大きさや箇所によっては多少異なる指使いで弾いても良いですが、その場合でも曲の流れを損なわないようによく考えて指使いを決めましょう。
技術
バロック期の小さな作品は指の動きの練習にもとても効果的ですから、1曲をしっかり弾けるまで練習することが大事です。

このようなところがプレ・インベンションの特徴で、初級から初中級くらいのバロック小曲集でありとても濃い内容となっていますので、しっかり学ぶことができます。


気をつけたい点

上記のような特徴を持ったプレ・インベンションは、バロック期鍵盤音楽として楽しんで弾けて、さらに指の動きにも好影響がありますが気をつけたいいくつかの点があります。

譜読みに時間がかかる人もいる
「インベンションのまえに」とあり、初級で弾ける曲集だと思っていたのに譜読みに時間がかかる人もいるようです。この曲集から多声音楽を弾き始める方にとっては、1ページの短い曲でも難しく感じる場合もあるでしょうから、譜読みがしやすい曲から選択して弾いて行くといいでしょう。
馴染みにくい曲想のものも
親しいやすくて有名なメヌエットなどの作品が含まれている一方で、メロディーにあまり良さを感じないと思う作品もあるかもしれません。それでもじっくりと弾いてみると味わい深い曲も多いですので、バロック時代の鍵盤曲の良さを少しずつでも実感できるように長く付き合う必要があると思います。
校訂楽譜だということを意識する
この曲集は基本的に全ての曲に編集者の考察によるフレーズ、スラーやスタッカートなどのアーティキュレーション、そしてフォルテやピアノなどのダイナミクス(デュナーミク)が入っていますが、作曲者達が書いたそのまま状態の楽譜(原典版)には、そうした記述はありません。
ですから、他の同じようなバロック時代の小品集では、スラーやスタッカートやダイナミクスも違っている曲も多くあるので、特にピアノ指導者はそれらの異なる楽譜も参考にしながらレッスンで生徒に説明、そして活用していくといいでしょう。

こんなところに気をつけてみるとよいでしょうか。難しいことを考えなくても、曲集ですからまずは演奏者自身が楽しんで弾くことができればいいでしょう。


効果的に使用するには

この本の巻末のアドヴァイスには、全曲の難易度と練習順が書かれているので、難易度と曲の進め方の一つの参考になるでしょう。
しかし、このプレ・インベンションの56曲を全て弾かなければいけないということもありません。現実のレッスン現場では全てを弾いていくよりも、適度に数曲〜十数曲を弾いてからバッハのインヴェンションに入るという進行も多いと思います。

ですから、年齢や実力、ピアノの経験や目指す方向性などに応じて、適度に使っていきましょう。
バッハのインヴェンションに入るまでにまだ期間が必要な子供や、持ち曲が多くても余裕がある方は、できるだけ多くの曲に挑戦されることをおすすめします。
常にバロック期の曲を弾くようなレッスンをされていない方や、譜読みが遅めの方でも、バッハのインヴェンションに入る前までに、例えば上記の曲目紹介の作曲家1曲ずつで、計10曲以上を目安にしっかり弾いておくと、多声音楽への耳と指の馴染みがよくなり効果的です。
時々バロックの小品を弾くようなスタイルの方は、好みの曲をじっくり弾くのもいい方法です。


重要な補足説明

レッスンでこの全音のプレ・インベンションを採用される指導者の方は、できれば他の出版社のバロック期小品集や、さらにバロック期の原典版も手元に置き、楽譜を見比べてみることをおすすめします。
バッハのインヴェンションやシンフォニア、さらにフランス組曲や平均律などに向けて、本来はバロック期の導入楽譜も原典版を読み解きながら勉強していくことが望ましいので、可能であれば生徒にも原典版のバロック小品集を持たせた上で、このプレ・インベンションを補助的に使う方が良いと思います。
例えば、バッハの小品集でも新版 こどものバッハ などは基本的に原典版のスタイルの曲集になっていて、校訂者のフレージングのスラーやスタッカート、デュナーミクなどがつけられていない楽譜です。

また、校訂された楽譜は出版社の校訂によってフレージングのスラーやデュナーミク、スタッカートやノンレガートなどの違いがかなりありますので、例えばたのしいバロックアルバムの校訂はではプレ・インベンションとはかなり違うスラーやデュナーミクがつけられているので、プレ・インベンションの楽譜に固執せずに、生徒に複数の演奏案を提示してフレーズやデュナーミクを考えてもらうのもバロック期音楽を弾く上では大切なことです。
このあたりのことは、版選びの基本的考えのページやバッハの版選びのページなども合わせてご覧ください。

また、このプレ・インベンションにはバロック期の重要な作曲家であるドメニコ・スカルラッティやクープランの作品が収録されていないのが少し残念ですが、そうしたことからも指導者はやはりもう1冊くらいはバロック期の初級曲集を持っていても良さそうですので、楽器店の楽譜コーナーで見比べてみるのもいいでしょう。

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