ピアノレッスンのヒント集

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楽曲と教材〜教則本考察ツェルニー練習曲4 必要な人と適した使用

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ツェルニー30番練習曲  全音ピアノライブラリー
ツェルニー30番練習曲

ツェルニーの使用は限られる

ここまでを整理すると、結論に近いと思います。どういった場合にツェルニーが必要でしょうか。

趣味のピアノには必要ない

まず、趣味でピアノを弾いて楽しむ人・専門レベルを目指していない人は、ツェルニーは必要ありません。ツェルニーの練習曲シリーズは、バーナムやハノンなどと違って誰に対しても開かれているものではなく、あくまで専門レベルを目指す人のためのものだと理解していただいて結構です。

ですから、ピアノ練習者が自分にとって不足しがちなテクニックを鍛えようとするときに、ツェルニーの中から適宜抜粋で練習曲を使用しても良いのですが、1から順にやっていくことは、時間と労力を無駄に消費しています。

つまり、趣味で楽しくピアノを弾こうという人は、別にそんな音階やアルペジオを無理してまで完璧に習得しておく必然はありません。ショパンやシューマンのピアノ曲を弾く人でもです。基礎技術が徹底されていないくても、多くの曲に挑戦していけば、リストやブラームスの大曲だって満足なレベルで弾けます。

もちろん、1番から順番にやっていく教則本タイプのものが好きだという人は、1冊を時間をかけて弾いてもいいのです。

専門志向でも選択肢のひとつ

専門的なレベルを目指そうとしていても、前ページの項目を満たしていない限り、練習メニューの選択肢にツェルニー30番は入ってきません。
例えば、バロック・古典・ロマンなどを既に弾いているけど、もう少し音階やアルペジオといった技術を強化したほうが、よりスムーズにピアノが弾けるようになると思われる時に、ツェルニーが選択肢に入ってきます。単純ではあるけど、これらの基礎テクニックに特化しているツェルニーで、技術の底上げをはかるのです。当然、指定テンポで完全に弾くことができなければ、その目的は達成されません。

ここで一つの疑問がでてきます。普通はツェルニー30番練習曲で、基礎ピアノテクニックを身に付けると思われていますし、このコーナーでも基礎テクニックの練習曲と書いてきました。しかし、本来はそうではないのです。

ツェルニー30番を完全に弾くためには、やり始めた時点ですでにかなりピアノが弾けているのが当然であり、基礎テクニックの底上げをするためにあるのです。

ですから、ツェルニー30番を指定テンポで弾けないうちに番号だけ進んでしまうレベルでは、30番に入るには早すぎです。30番に手をつける前に、もっと練習をして実力を積まなければいけません。同じように30番に2年もかかってしまうのでは、全くそのレベルではないのです。しかし現実にはバイエルの次にツェルニー30番を持ってくるピアノ指導者もいるので、このあたりが困りものです。

そして、音階やアルペジオの奏法を理解していない指導者のもとでツェルニーを習得してしまうことも問題です。ツェルニー30番・40番などを、ほとんど暗譜しているような人でも、肘がバタついたり、無理に親指をくぐらせるような奏法を身に付けてしまっている人は、かなりの数いるのです。


いかがでしょうか。ここまでで、ツェルニー30番練習曲と使用する場合についてご理解いただけたと思います。そしてそれは一般的に思われているよりも、かなり狭い範囲ということであり、使用者は限定されます。

まとめです。ツェルニー30番練習曲の使用が選択肢に入ってくる人とは、

30番練習曲を指定テンポで完全に弾けると想定できるピアノ専門志向の人で、基礎ピアノテクニック強化が必要であると思われる人

そして、

使用者本人がツェルニーの役割を理解し、音階やアルペジオの奏法にきちんとした理解のある指導者についている人

ということになります。


専門志向でツェルニーを使用する人は

必須ではない

「専門レベルを目指す人は必須でしょう?」と思われる方もいるでしょう。しかし、それも違います。まとめの結論をみてもらうとわかるとおり、基礎テクニックの強化を優先させる時期だと思う人のみが、ツェルニーを弾く選択肢がでてくるのです。ですから、いろんな曲を弾いているうちに、ピアノテクニックが身についた人は、面白くもないツェルニーをやることもないのです。

ピアノを専門的にやろうとする人でも、ツェルニーが必須ではないことは、簡単な説明でわかります。モーツァルトやクレメンティやベートーベンといった鍵盤楽器の名手達は、自分より後に生まれたツェルニーの練習曲など弾いたことがないのは当たり前です。そしてツェルニー自身も、ツェルニー練習曲でピアノが上達したわけではありません(これも当たり前)。これで古典を弾くのに必要なピアノ基礎テクニックが、ツェルニーを弾かなくても身に付けることに問題ないことは、わかるでしょう。

そして現在でも、ツェルニーの練習曲シリーズを弾いたことのないピアニストは、世界に大勢います。要するに良いテクニックを身に付けることが目的なので、それが身についている人、他に身につく手段があれば、ツェルニーは不要ということになります。できれば、多くのピアノ曲を弾くことによって、ピアノの基礎テクニックを習得でき、さらに積み上げていることができれば理想です。

ピアノ専門の人にとって、ツェルニーのような基礎ピアノテクニックが身についていることは当然ですが、ツェルニーを弾くことが当たり前ではないのです。

使用の期間

実際にはツェルニー30番などによって、基礎レベルを重点的に練習する時期があってもいいでしょう。音階やアルペジオのテクニックの底上げには効果的なのは確かであり、再確認する意味合いもあると思います。

しかし、そういった使用でも1週間に1曲を仕上げるペースよりも遅いのは読譜力と技術力が不足です。1週間に1曲か2曲のペースで指定テンポで完全に弾くことを目標とし、半年以内くらいで30番を終えるか、遅くても1年以内で終了したいものです(現実には1年〜2年くらいの期間をかけている人が多いと思いますが、じっくりとやっていくのもひとつの選択肢であり、指導者の考え方や生徒の進度にもよるので、本来は「どれくらいの期間」というのは、あまり意味のないことでしょう)。

仕上げる

当然ですが、ツェルニーに限らず練習曲というのはかなり仕上げないと弾いたことにはなりません。指定のテンポで弾くのは当然ですが、難しい場合でも可能な限り近づく努力をしてみましょう。もちろん、途中で止まったり弾きなおしをしているようでは、全くダメです。

ツェルニーの練習曲はその構造上、音楽的は面白くないのは仕方のないことですが、音や和声の流れに沿った曲想で、まとめるように弾ければ良いでしょう。全てが同じような音量で弾いてしまっては、ピアノの練習になりません。

音楽的なのか

ツェルニーの練習曲シリーズはどれも一応は音楽の形をしています。取り組むなら表現上もしっかりと仕上げましょう。当然、ある程度の速さで弾かないとそれらしくは聴こえません。
しかし、必要以上に音楽的なものだと思い込む必要もありません。「ツェルニーのような練習曲だって、心から音楽を感じて弾くことが大切であり〜」というようなことを言っている人は必ずいます。ですが、それはかなり無理のある考えです。こういった基礎練習曲を音楽的なものを感じている指導者の音楽性が疑われますし、その考えを生徒に強要するべきではないでしょう。
「ツェルニーを音楽的に」、「ツェルニーもきちんと弾けば音楽的である」という言い方自体が疑問です。「ショパンを音楽的に」という言い方は普通はしませんよね。そんなことを強調しなくても、ショパンは素晴らしい音楽だと多くの方が実感できるからです。

普通に考えてみれば誰でもわかることです。ピアニストはツェルニーの練習曲を並べたプログラムでリサイタルはしないですし、ピアノ発表会で生徒全員がツェルニーを弾くとしたら、それはとてもつまらないものになるでしょう。(余談ですが、それに近い発表会は実際にありますし、行ったこともあります。父母の方が「なんで皆同じようにただ音階みたいなのを弾いているの?」と言っていたのは、当然でしょう)

補足-ツェルニー30番以降について
このツェルニー特集では、主に30番練習曲はどのような場合に必要性が出てくるかについて述べています。ではそれ以降の40番や50番などの練習曲は、音大受験などを目指す専門志向の人には必要なのでしょうか?
この判断は指導者によって異なるでしょうが、30番をしっかりと弾けている人や似たようなレベルのルクーペのラジリテなどをやった人なら、40番は少ない期間で終えることができるでしょうから、やって損はないでしょう。ただ、それ以降も50番や60番が必要かと言われると、判断に迷います。40番をしっかりと弾ける頃でしたら、クラーマーやモシュコフスキーやモシェレスなどを(抜粋で)弾いて、ショパンなどのエチュードという流れの方がいいのかもしれません。また、ツェルニーはやっても50番まででしょう。60番も結局は似たような傾向であり、やるとさらに技術力がアップするということでもないので、他のものをより多く弾いた方が賢明だと思われます。

いかがでしたか。今回のコーナーでは、ツェルニーを使用するコツというよりも、ツェルニーはどのようなもので、どういった人に必要なのかを中心とした内容になっています。それは、趣味で楽しくピアノを弾くなら必要性は薄く、使用するならしっかりと完全に弾くという原則を、ピアノ指導者が徹底できていないのが実情のように思っていたからでもあります。

もちろん当サイトの考え方を、どう受け止めるかは個々のピアノ指導者や練習者の自由です。ひとつの参考だと思ってください。

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