ピアノの初歩と初級教則本で、日本では決定版的な存在として使用されることが非常に多いバイエル教則本。
このバイエル教則本について、考えてみましょう。
一昔前よりも、バイエルを使用するピアノ指導者は減ったような印象もありますが、現在でもかなりの割合で使用されているようです。
では、なぜバイエルが多く使われていて、どこに問題点があるのかを考えてみましょう。
このバイエル教則本についての特集は、以下のようなページ構成になっています。
- 特集バイエルを考える1中身を確認
- 特集バイエルを考える2どうして使うの?
- 特集バイエルを考える3それでも使うとき
- 特集バイエルを考える4先生がバイエルを使う人だったら
バイエルの歴史背景をおさらい
ドイツ人のフェルディナント バイエル作の「ピアノ奏法入門書」、いわゆるバイエル教則本は1850年頃に作られたといわれています。ヨーロッパの音楽の時代としては、初期のロマン派を代表するシューベルトは既に亡くなって30年近く、ショパン没の直後でシューマンは晩年。ピアノではリストが活躍し、楽劇のワーグナーが全盛の頃でロマン派が全盛の時代と言えます。
ピアノも大きく発達して現在のピアノに近くなった頃で、モーツァルトの頃に比べると音域も広がり、構造も頑丈になっていって音量も出てきました。
バイエル教則本はそのような時代につくられたようですが、ロマン派の影響もあるものの、バイエルはおそらく子供と初心者を意識して作ったせいか、それまでの古典の要素が多く見られます。基本的に音域が狭い範囲で弾けて、基本和声のみのアルベルティバス(左手のドソミソなどの伴奏音型)や、その変形の多用などが、その例です。
日本には明治時代にバイエル教則本が入ってきています。それ以来、日本では初級教則本の頑固たる地位を築き、バイエル以外の初歩教則本を使う人はほとんどいない状態だったようです。
しかし、次第にバイエルの問題点を指摘する人や他の教材を使用するピアノ指導者が増えてきて、使用の割合は年々低くなっているようです。ちなみに、生まれ故郷のドイツではほとんど使われていないようです。
バイエルの中身を確認
標準版や全訳版などのほか、子供ようには楽しいイラストや少しの併用曲などを収録した版など、日本では標準的なものから工夫をした様々なものが出ていて、また出版社によって多少は番号の付け方の違いがありますが、中身は基本的には同じです。
版によって番号が異なる場合があるので、以下は番号で説明する場合に「くらい」をつけます。
簡単に内容を確認しましょう
曲は1番から100番を少し越えたくらいあり、全て無題(曲にタイトル無し)の練習曲といった感じです。番号が少ない簡単なものから始まり、少しずつ程度があがっていくタイプのピアノ初心者から初級者用の教則本です。
全体を通して左手が定型的な伴奏で、右手が単純なメロディーという曲が多い。和声は主要3和音が主体。
最初から31番くらいまでは、両手の鍵盤位置がほぼ固定されています。弾く音域は、左手が鍵穴近くのドからソで、右手はその1オクターブ上のドからソです。
32番からは、多少音域が広がります。左手はそれまで弾いていたソより上のミまで、右手も同じくそれまでのソから上のミまでで、加線が出てきます。それでも、要するにト音記号のみで弾きます。ヘ音記号がでてくるのは、60番を越えてからです。
70番くらいからト長調が出てきます。それまではハ長調です。調号はシャープ(♯)が最大4つまで。85番くらいで初めてフラット(♭)が出てきます。フラットは最大2個です。
60番で短調の曲がありますが、それ以降は90番以降になって短調が登場します。
43番くらいまでは全音符と2分音符と4分音符で作られていて、それ以降に8分音符が登場。16分音符は86番くらいから。
バイエルの初級教材として問題点
上記で簡単に内容を挙げましたが、気がつくことがたくさんあります。
両手でト音記号の期間が長いので、ヘ音記号が出てきたときには難しく感じる
ハ長調の期間が長いので、後で出てくるシャープやフラット、そして黒鍵をを難しいものと感じる。また、ハ長調が基本の調だと思い込んでしまう。
同じ音域を弾く期間が長いので、譜読みのスピードが遅いまま経過する。音域が広い曲に対して、手の反応が早くならない。
同じような音型〜例えばドソミソのようなアルベルティバスやその変形・音階ものが多いので、それ以外の音型や動きを難しいと感じる。
要するにバイエルは、ト音記号・両手の位置固定・ハ長調・似たような音型でピアノを弾く期間がとても長いので、終盤で調号やヘ音記号・16分音符と覚える要素が増えてくると、急に難しくなったように感じることがあげられます。またバイエルのパターンに慣れてしまいうまく弾けたとしても、他の曲に対応できないのです。
また、これらの問題から派生する問題点として、
譜読みが早くなっていかないので、新しい曲の譜読みに対する抵抗感がついてしまいがちである。
ピアノ初歩のうちにバイエルのイメージや音型に慣れてしまうと、かなりピアノが上達してもメロディーに伴奏をつけるなどの課題に対して、バイエルの左手のような伴奏しかつけられない(音大生やピアノ指導者レベルでも沢山いて、これは大きな問題のひとつだと思います)。
バイエルでは和音を弾く動作にほとんど出会わないので、和音動作が苦手になりがちである。
といったことが挙げられます。
普通はこれを知れば、ピアノの専門家でなくてもバイエルの欠点はおわかりだと思います。ハ長調の白鍵のみで同じような曲だけを長期間弾いても、ピアノが面白くもなければ上達することもありません。バイエル教則本の番号が進んでも、ピアノが上達したことにはならないのです。
ではなぜピアノの先生はみんな使うのか、続きはこちら→特集バイエルを考える2どうして使うの?