旧ソ連の時代には、多くの作曲家がピアノ教育のための作品を生み出しましたが、中でもこのカバレフスキーは自身がピアニストでもあり、こどもの音楽教育にも熱心だったため非常の多くのピアノ作品を残していて、日本でも親しまれています。
その中から、今回は程度的にはブルクミュラー25練習曲くらいの実力から弾ける、「こどものためのピアノ小曲集(30の小曲集)Op-27」を取り上げてみましょう。
こどものためのピアノ小曲集 の内容
概要
カバレフスキーのセンスが全30曲にたくさん入った曲集で、親しみやすい曲も多く入っています。
各曲にはそれぞれ題名がついていて、通して弾くというような関連性よりも、独立した曲の集まりの印象です。
難易度的には初級から初中級の曲集で、音楽的にも技術的にも異なりますがブルクミュラー25練習曲と同程度から、少々テクニックを必要とする曲まであります。
曲の長さと特徴
小曲集ですから各曲はどれも短く、1ページか2ページの曲が多いですが、4ページの曲も数曲収録されています。
和声の変化に特徴がある曲が多く、臨時記号が少し多いと感じる方もいるかもしれませんが、調合はシャープ、フラットが3つくらいまでの曲がほとんどです。テンポもゆっくりな曲から、非常に高速な曲まで多彩です。
各曲を見ていきましょう
全30曲の中から、比較的親しみやすく上達にも効果的で弾き応えのある曲をいくつか見ていきましょう。
- 1 ワルツのように
- 同じ形が繰り返されるシンプルなワルツ調の曲ですが、その和声の変化にカバレフスキーの特徴があると言えるでしょう。臨時記号を見落とさないように譜読みをして、変化を楽しみましょう。
- 2 小さい歌
- 懐かしいようなきれいなメロディーと和音から構成されている簡素な曲です。メロディーを気持ちよく歌うように弾いてみましょう。
- 3 エチュード
- 題名のように指を動かす練習曲ですから、ゆっくりと確実に練習を重ねたらテンポをあげて、ある程度は速く弾く必要があります。動きとしては難しくはありません。
- 4 川辺の夜
- 静かに弾く曲です。特徴は小節のまとまりで、4小節や8小節でひとまとまりの曲が多い中、この曲は2小節が3つで6小節がひとつのまとまりになっています。
- 5 ボール遊び
- 同音連打の練習が課題になる曲ですが、単調に同音を連打するだけではなく、楽しい曲に仕上がっているのがカバレフスキーの特徴でしょう。
- 6 かなしい物語
- 少しずつ変化がある旋律が、少しかなしい雰囲気をつくっています。課題になるのは右手よりも、左手の和音です。
- 8 子守歌
- ゆったりと流れるようなピアノ曲ですが、そのように弾くのが簡単ではありません。メロディーの動きがぎこちない感じにならないように。特に左手にメロディーがある時には配慮しましょう。
- 10 おばけ
- 高速で弾かないと曲の雰囲気を出せないので、慣れるまでしっかりと弾いてからテンポアップしましょう。強弱は当然しっかり表現してみましょう。
- 12 トッカティーナ
- 左手メロディーと右手伴奏の曲を、リズムに乗って弾きましょう。フォルテをしっかり出して、最後のピアニシモも響きを出すように。
- 13 いたずら
- 細かい音符も、指は重くならずに軽い動きでどんどん進みたい曲です。題名が「いらずら」ですから、どこかおどけた感じに表現できるといいでしょう。
- 15 マーチ
- 左右の手は似たような動きをしていますが、この響きがカバレフスキーらしいマーチになっています。上昇でも下降でも乱れないように確実に練習してみましょう。
- 19 戦士のおどり
- この曲集の中でも演奏される機会の多い有名曲です。フォルテは十分にしっかりと、そしてピアノの箇所もはっきりとした響きを出すように弾くと、曲の感じが出せると思います。最後の8小節の右手をよく練習しましょう。
- 20 みじかいお話
- 楽譜の見た目ではそれほど難しくも感じない曲ですが、左手の伴奏系アルペジオがこの曲の課題になるでしょう。もちろん右手メロディーのフレーズに気をつけて弾いてみましょう。
- 23 吹雪
- 途切れることなく最後まで弾くこの曲は、速いテンポで弾かないと題名の「吹雪」を表現することができません。確実に繰り返し練習をして左右の手をしっかり合わせて弾けるようになってからテンポアップです。
- 25 ノヴェレッテ
- ゆったりとした中で、響きが大切な曲です。この曲の持つ雰囲気は大人の方でも好きな方が多そうですから、ぜひ弾いていただきたい。拍子のリズムは大切に。
- 27 おどり
- 3度の練習が課題になります。ダンスですからリズムにのって歯切れ良いスタッカートで弾きましょう。左右ともに3度の部分練習をしっかりやってから仕上げてみましょう。
- 29 騎士
- それほど難しい曲ではありませんが、左手にメロディーがあるので、左右のバランスをよく考えて弾きましょう。2拍子らしく進む感じを大切に。
特徴と有効性
初級くらいで弾ける曲集でありながら、広い音域や幅広いテクニックの使用、軽快なリズム、独特の旋法的なメロディーラインなど、大変楽しいピアノ曲集ですから、レッスンに取り入れることによってピアノの世界が広がるでしょう。
カバレフスキーのこの小曲集は教則本や練習曲集ではないので、有効性や不満点を述べるのは少し違うようにも思いますが、ピアノ教育の現場で教則本と併用して、または練習曲などとしても使われることも多いので、以下に一応の簡単に書いておきましょう。
- 1曲が短めでユニーク
- 1ページの曲も多いのですが、テンポ、フレーズ感、メロディーの動き、テクニックの課題、和声感などに工夫がありユニークな曲も多い曲集です。
題名から曲の雰囲気もつかみやすいのも特徴でしょう。曲の難易度にも少し違いがあるので、実力に合った選曲ができます。 - 指使い
- 指使いの指示が少しありますが、どの曲でもオーソドックスな指使いを採用しているので、とまどうことは少ないでしょう。この指使いで弾いてみて、なじめない場合には工夫をしてみるといいと思います。
- ペダル
- ペダル指定は多くはないのですが、書かれている箇所ではもちろん使います。指定がない箇所でも特にゆったりとした曲では、曲の性格や使うピアノ、奏者の表現の好み等によってペダルを入れてもいいでしょう。もちろん、響きにはいつも配慮が必要です。
- 技術
- こどものための小曲集ですから、難しい動きが連続するようなことはありません。しかし、エチュードという題名の曲が3曲入っているように、この曲集全般としてある程度のテクニック練習を目的にしています。細かい動き、アルペジオ、高速の曲、指の保持、リズム感、ペダルの使い方、フレーズ感を生かしたメロディーの弾き方、同音の連打、スタッカートの弾き方などが特徴ですから、弾く曲の技術目的も考えて練習しましょう。
- ユニゾンが多い
- 上記の技術とも関連しますが、カバレフスキーの曲は左右の手がオクターブ違いで同じように弾くユニゾンが多いのも特徴で、この曲集にもユニゾンのみからなる曲がいくつか収録されています。中級以上の曲を弾くために必要となる大切な動きです。
ユニゾンだと譜読みが楽なのでユニゾンは簡単だと思われがちですが、左右の手は同じように弾いても、動きとしては異なることになりますから、しっかりと確認して弾きましょう。
このようなところが、カバレフスキー「こどものためのピアノ小曲集」の主な特徴だと思います。初級から中級くらいの小曲集のですが、雰囲気を持った楽しい曲がたくさん入っています。
気をつけたい点
カバレフスキーのこの小曲集は教則本や練習曲集ではないので、気をつけたい点としていくつか見ていきましょう。
- 譜読みに時間がかかる場合も
- 楽譜を見た感じでは、音符も込み合っていないのですぐに弾けそうな曲もありますが、譜読みに時間がかかる人もいるようです。特に臨時記号の多い曲では、バイエルやツェルニー100系などの単純な楽譜のみを弾いてきた人には、慣れるのに時間がかかる場合もあるでしょう。
- 中には曲想に馴染みにくい人も
- カバレフスキー独特の曲の雰囲気に、少々とまどいを感じる人もいるでしょう。確かに一度や二度弾いたくらいでは、曲のイメージをつかみにくい場合もあると思います。そんな場合は1ページの短い曲から、弾いてみるのがおすすめです。
- テンポに注意
- この曲集の曲には、全てにテンポが記されていますが、実際に弾く場合には演奏者の実力が好みによって、多少のテンポの調節は可能です。
しかし、Allegro や Presto や Vivace などの指定テンポの曲は、ある程度の高速で弾かないと曲としての表現ができないので、よく練習してテンポアップする必要があります。 - リズムが重要
- カバレフスキーのピアノ曲は、リズムがとても大事です。拍子の基本的なリズムは当然ですが、スタッカートやテヌートの音の弾き方、フレーズのまとまりなど、よく考えて感じて弾いてみましょう。
このようなところに気をつけてみると、カバレフスキーを楽しく弾けると思いますので、まずは1ページの簡単な曲から挑戦してみるといいでしょう。
効果的に使用するには
30曲が収録されていますが、個々に独立したピアノ曲ですから、1番から順番に全てを弾いていくような使い方ではなく、好みの曲や技術的な課題の曲を選択して弾くのが良いでしょう(もちろん、全てを弾いてもいいのですが)。
すでにブルクミュラー25練習曲や、ツェルニーの110番などをやっている方なら、このカバレフスキーの中から数曲を課題に選択してみると、ピアノ表現とテクニックの幅が広がりそうです。
また、ゆったりした曲も収録されているので、「1 ワルツのように」や「6 かなしい物語」、「25 ノヴェレッテ」などが雰囲気がありますから、大人の方にも適した曲集だと思います。
また、もう少し上の難易度の曲を弾かれている方には、この曲集を初見練習として使ってみましょう。適度の臨時記号もあり、テンポの速めの曲もありますが、できるだけ最初から仕上がりに近い演奏で弾けるように初見に挑戦することで、実力アップになるでしょう。
補足説明
20世紀に大作曲家が作った初級から初中級くらいのピアノ教則本や小品集などでは、カバレフスキーは大きな存在で日本でも比較的早くからピアノ教育に取り入れられていたと思いますが、現在ではもう少し新しいタイプの曲集なども普及して、カバレフスキーの人気も一時期ほどではないかもしれません。
それでも、テクニックとリズム感、そして音楽の楽しさが味わうことができるピアノ小曲集ですから、1曲か2曲でも弾いてみると他の作曲家とはまた違った楽しみがあるでしょう。
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