ショパンの鍵盤作品の版(エディション)選びについて、考えてみましょう。
ショパンの楽譜は現在は数多くの版が発売されている作曲家の1人と言えると思いますので、ワルツやノクターンなどお馴染みのピアノ曲も選択肢はかなり広いと思います。
ここでは、版選びの基本的考えで触れた考え方を元に、信頼性と使いやすい版についてみていきましょう。
ショパンの版の事前知識と選び方
ショパンに限らず昔の作曲家の楽譜は、自筆譜が残っていなかったり、残っていても解読が困難なほど書き方が曖昧だったり、初版の時点で明らかなミスがあったりなど、多くの問題があるのが当然です。
特にショパンは生前、作曲すると複数の出版社から曲を出版していたので、フランスの初版やドイツの初版などがあるなど、ショパンの生前の時点で初版が複数存在していて、それらがそれぞれに楽譜に違いがあったり、ミスがあったり、出版社が勝手に書き入れていたりしていて、これが後に問題となります。
そしてそれらの楽譜を、ショパン自身が弟子のレッスンで直接書き込みで訂正したり、箇所によっては変更したりするなどしました。
ですからたくさんの材料があるので、ショパンの意志が正確に反映された決定的な原典版をつくることが非常に難しいという事情があることを、まずは頭に入れておく必要がありますが、それでも多くの資料を精査してつくりあげた原典版はいくつかありますので、それらを基本的に選ぶといいでしょう。
校訂版や実用版などが多いのもショパンの楽譜の特徴ですが、ショパンを弾くためには基本的には原典版があれば充分なので、まずは原典版が1冊あればいいでしょう(原典版については版選びの基本的考えを先にお読みください)
そして、さらに必要であれば有名ピアニストなどの校訂版を用意するというのが良いでしょう。
ショパンの原典版
1冊を準備する場合でも2冊以上を使う場合でも、まず信頼性のある原典版を1冊準備したいものです。
現在は複数の原典版が存在しますが、代表的な楽譜には以下のような種類があると思います。
曲集名 | 内容説明 |
---|---|
エキエル版 ショパン 16 グランドポロネーズ 変ホ長調 作品22 1台ピアノヴァージョン(ナショナルエディション日本語版) |
多くの資料と比較検討して、長年の研究の成果でつくりあげられたショパンの実像に最も近いと言われるエキエル版ナショナルエディション。ピアニストや専門志向の人、趣味でもショパンを良質の楽譜でしっかり勉強したい人にとって、これからのショパンの演奏の主流となる楽譜だと言えます。 日本語版はまだ数種類のみで揃っていないが、輸入版は充実しています。 |
ウィーン原典版(65) ショパン ノクターン集 |
海外と楽譜出版社の2社と日本の音楽之友社の合同作業によるウィーン原典版シリーズの楽譜は、ドイツとオーストリー系の作曲家が充実していますが、ショパンの原典版にも定評があります。 最新の研究が反映されているわけではないのでやや古さがあるものの、使いやすさと信頼性、価格などの面でも充実した楽譜です。 |
ショパン: ノクターン集/ヘンレ社原典版 |
原典版の楽譜というものを世の中に定着されたヘンレ版は、近年では必ずしも最良の楽譜とは言えない状況になってきましたが、バッハやベートーヴェンなどでは根強い支持も多い楽譜です。 ショパンの楽譜も以前より一定の評判があるので、専門家でも使用している方も多いでしょう。 |
まず、ショパンの原典版で、現在最も信頼性の高い楽譜は一般的にエキエル版(エキエル版ナショナルエディション)と呼ばれる楽譜であることはよく知られています。
ヤン・エキエル氏を中心に、数十年をかけたポーランドの国家プロジェクトとも言えるショパンの楽譜収集と研究作業を反映した楽譜シリーズであり、ショパン演奏では世界の主流になりつつある楽譜ですから、ピアニストやこれからショパンを本格的に勉強しようと思う学生、趣味だけどしっかりとした楽譜でショパンを弾きたいという方は、この楽譜が第一の選択肢になってくると思います。
日本語版はまだ数種類しか出版されていませんが、輸入版を取り扱う楽器店も多くなってきたので、目にする機会は以前よりかなり多くなったと思います。
しかし、エキエル版は日本語版も輸入版も少し大きな楽器店へ行かないと揃っていないことも多く、さらに少し高価な楽譜であるというのも事実です。
そこで、エキエル版の代用というわけでもないのですが次の選択肢として、研究としてはやや古いのですが、ウィーン原典版が良質な楽譜としてあげられます。
若い頃のエキエル氏の研究が主に反映されている原典版シリーズで(エチュードのみ、スコダの校訂)、校訂報告や注解といった内容もしっかり含まれていますし、ショパンの指使いとエキエル氏の参考指使いも区別して書かれています。
装飾音符をどこで合わせれば良いのかもところどころ点線で示されています。
他には、日本語版ではありませんが、ヘンレ版があります。
ドイツ系の作曲家に定評のあるヘンレ版ですが、以前よりショパンの楽譜にも一定の評判があります。
ヘンレ版は校訂の過程などを詳しく記さないですし、残念ながら研究もそれほど新しいわけではありませんが、近年は徐々に改良されているので1冊だけでも充分に使用できる楽譜です。
ショパンの校訂版
ショパンの楽譜には様々な校訂版や実用版が出版されていますが、代表的なものを見ていきましょう。
曲集名 | 内容説明 |
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標準版ピアノ楽譜 ショパン ワルツ集 New Edition 解説付 |
音楽之友社の標準版ピアノ楽譜New Editionによるショパンは、従来の古い海外版をそのまま出版するような標準版ではなく、多くの資料を検討して丁寧に作られた原典版+校訂版のスタイルの楽譜シリーズです。 ショパンはエチュードとワルツの2冊のみですが、いずれも学習者から専門家まで使える良質な楽譜なので、1冊のみ買うときでも選択肢に入るでしょう。 |
ショパン : ワルツ集/パデレフスキ版第9巻 |
従来はピアニストや専門家、学生など、誰もが使ったいたパデレフスキ版ですが、現在では良質な楽譜が多数出版されるようになってきて、肩身の狭い楽譜となりつつあります。 ただし、長年使われていて多くの人にとって使われてきて、録音などでも耳に馴染んでいる楽譜なので愛用者はまだまだ多い楽譜です。できれば、他の原典版を準備した上での参考に使いといいでしょう。 |
注目したい楽譜としては音楽之友社の標準版ピアノ楽譜New Editionの2冊のショパン楽譜があげられます。
標準版の新しいシリーズということで出版されていますが、編纂のスタイルとしてはフランス初版を底本にしながらも多くの資料を基につくりあげられていて、さらにショパン協会国際連盟が協力、ショパン自身の指使いと現代のピアニストのジョジュアーノ氏が入れた参考指使いをしっかり区別して書かれていて、原典版+校訂版に近い楽譜と言えるでしょう。異稿などについても触れられているので、手ごろな価格でありながらも良質な内容です。
残念ながら、まだエチュード集とワルツ集の2冊のみですが、学習者にもピアニストにも使いやすいとても良質な楽譜で、1冊のみで弾く方にも選択肢に入ってくると思います。
今後はバラードやノクターンなども発売も期待したいところです。
代表的なショパンの楽譜といえば従来はパデレフスキ版でした。
多くの資料を基に編纂されてはいるものの、ショパンが作曲した実像をできるだけ反映するということよりも、どちらかというと演奏効果が上がるな編纂と言われており、研究の進んだ現在ではパデレフスキ版は不正確な部分も多い楽譜と言われるようになりました。指使いもショパン自身のものと校訂者のものを区別していないという欠点もあります。
パデレフスキ版も作成する方針としては、当初はショパンの実像に近い原典版をつくるという方向だったと思いますが、出来上がった楽譜は原典版からは遠い内容となってしまったと言えるでしょう。
こうしたことから、エキエル版が出来上がる前は世界標準的なショパン楽譜という位置づけだったパデレフスキ版も、今では参考程度に使う方が良いかもしれません。
ただしCDなどの録音は、最近の録音されたもの以外はパデレフスキ版を使ったものも多い(特に昔の巨匠などは)ので、新しくてよりショパンの実像に近いと思われるエキエル版などの楽譜よりも、パデレフスキ版のショパンに耳慣れしている方も多いと思います。
さらに、ピアノ指導者もパデレフスキ版で勉強してきたという事情もあるので、現在でも使用者の多い楽譜ということは言えますし、もしかしたら現在でも「ショパンの楽譜はパデレフスキ版が最良」と思っているピアノ指導者もいるかもしれまんが、できれば上に挙げたような他の原典版楽譜を使用した上で、パデレフスキ版の指使いやフレージングを参考にするといった使い方がいいでしょう。
他にも、名ピアニストのコルトーが校訂したコルトー版などもありますが、当然ながら時代的に楽譜そのものの内容の正確性は期待できません。
ただし、コルトーが考えた練習方法などがたくさん掲載されているので、特にエチュードやバラードなどの難易度の高い曲を弾く人には練習の参考になります。
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