指の練習曲といったら、まずハノンというほど有名な存在のハノン(アノン)教則本。ピアノを習ったことがある人で、このハノンを一度もやったことの無い人は、きっと少ないでしょう。
そこまで有名なハノンの指練習ですが、同じような音型を繰り返すこういった練習曲は必要不可欠なものなのでしょうか?また、効果は本当にあるのでしょうか?
いきなり結論
ハノンでたくさん指練習をすることと、ピアノが上達することは全く別のことだということは、いくつかの別ページでもすでに述べてあります。「鍵盤を弾く指のポイントで弾くこと」「指や手首や腕から余計な力を抜くこと」が出来ないと音を完全にコントロールすることができない状態の人が、たくさんハノンで指の練習をしても音の粒をそろえるような効果はないのです。
逆にいうと、それができているのなら、ハノンを練習することは、指の筋力や持久力と俊敏性をつけるという意味はあります。
しかし指の強化を目的にした練習は、1日に数十分をやることも10分やることも効果にあまり変わりは無く、日本では必要以上に生徒にハノンを頑張らせている傾向はあるかもしれません。
ハノンの効果を絶大視している人は、今日ではそれほど多くはないでしょうが、それでもこの手の練習というのは、やると「ピアノをがんばっている!」という感覚がするので、つい多くやってしまうという人もいると思います。また、ハノンをたくさんやることが、ピアノ上達につながると信じていて、やらなければいけないという脅迫観念を持っている人もいるのではないでしょうか。
しかし、ハノンをやっても譜読みの練習にならないことは確かですし(ハノン自身の解説にも、本の曲は全部初見で弾けると書かれている)、音楽の感性を高めることや音楽を表現することも学べません。(ハノン自身もこの本は指を準備するための運動だと解説している)
つまり、フォルテで機械的に弾かれることの多いハノンは、ピアノの練習というよりも、単なる筋トレと持久力トレの運動的要素が極めて強いということになります。
そういうと必ずといっていいほど「ハノンでも音楽的に弾くことが大事」というご批判をいただきますが、それには全く賛成しません。こういったハノンのようなものを音楽的に弾こうとか、音楽的に思う心をもってしまうことの方が、音楽を楽しめない人になってしまう危険が大です。それに通常の音楽性を持っていれば、ハノンを弾いてピアノから出てくる単純音型の連続は、聞いていて心地の良いものではないはずです。
内容を確認
結論的なことを先に述べましたが、一応もう少し検証してみましょう。
ハノン教則本(Le Pianiste Virtousite en 60 Eexecises 技巧的に優れたピアニストへの60練習曲)はいくつかの部分に分かれているので、使い方や目的がその部分によって異なります。まず内容を確認してみると
番 号 | 主な内容 | 簡易説明 |
---|---|---|
1から31番 | 同音型を2オクターブ上がって下がってくる繰り返し | 指を動かし筋力強化が主目的 |
32番から38番 | 音階の準備をするための指練習 | 音階で使用する指またぎや指くぐりを主に練習 |
39番 | 全調の音階練習 | 24調の音階弾く。単調は和声短音階と旋律短音階の2種類 |
40番 | 半音階 | 要するにただの半音階練習 |
41番から43番 | アルペジオ | 全調のアルペジオと減7と属7のアルペジオ |
44番から47番 | 同音の連続とトリル | 指を換えて同音を弾く技術とトリル練習 |
48番から53番 | 和音の連続と和音音階 | 3度からオクターブまでの和音の連続と和音音階 |
54番と55番 | 4重と3重のトリル | 和音でのトリル練習 |
56番 | 分散オクターブ音階 | 全調での分散オクターブ音階 |
57番 | 分散オクターブアルペジオ | 全調での分散オクターブアルペジオ |
58番 | オクターブ保持 | オクターブを弾いたまま、中の音を弾く練習 |
59番 | 6度の4重トリル | 6度の4重トリルで昇ったり降りてきたり |
60番 | トレモロ | とくかくトレモロの繰り返し |
こんな感じの構成になっています。かなりのページ数ですね。作者のハノンさんがいうように、これを1時間で弾くのには、ちょっと無理がありそうです。
ピアノを始めたらすぐハノン?
この本の内容のうち、ハノンを練習しているといえば主に指の練習の第一部の38番までのことを指しているといっていいでしょう。それくらい日本ではハノンによる指の強化練習は日常的に行なわれているようです。特にかなりのピアノ初心者にも、ハノンは使用されています。
こんな話を聞いたこともあります。小学1年生の子供が初めてピアノを習いにいったとき、ピアノの先生に「この曲集からやりさない」といって、ハノンを買わされたそうです。その子はピアノが弾けるようになると思って、ハノンをがんばってやったのですが、結局1ヶ月もしないでピアノをやめてしまったのです。
「そんな極端な話があるの?」なんて言っている場合ではありません。今日でも、ピアノ初心者にはバイエルとハノンのみというピアノ指導者は存在します。それを一概に悪いとはいいませんが、そのようなピアノレッスンでは、ピアノを弾く楽しさからは遠いと感じる人が多いのは想像ができると思います。
それに確かにハノンの指練習に一定の効果はありますが、気をつけないと手首がガクガクと上下に動くような無駄な動きや、どんな曲もゴツゴツと同じ音量で弾いてしますことが身についてしまうケースもあります。これは一度動きとして体備わってしますとなかなかとれないのです。特に鍵盤を弾く指のポイントではなく、指の先で弾いている人に多い現象です。そしてそれはハノンをがんばっている人の中に残念ながら少なくないのです。
ですから、こういったハノンのような単純音型指訓練のようなものこそ、聡明なピアノ指導者から、使う目的ときっちりとした練習方法を教えてもらう必要あるのですが、実際にはハノンは初見で弾けてしまうので、「ここまでを家で毎日弾きなさい」などと片付けられてしまい、自分にとって最適な指のポイントで弾くなどの、技術指導は細かくされていないのが現状ではないでしょうか。
これらの理由により、この第一部の指訓練を初歩や初級程度の人が、毎日行うのはピアノが上達するどころか逆にヘタになる可能性も大きいのです。バットの素振りを毎日しているが、実際にはピッチャーと対戦したことのないバッターのようなものです(少し違うかもしれませんが)。
ですので、この38番までの指練習は特に初心者などの指が思うように動かない人には必要ありません。こんなものやらなくても、普通の曲でも指は次第に強化されていきまし、もっと指のための練習がしたいのなら、他にすぐれた練習曲集は山ほどあります。
続きはこちら→ハノンの使い方2へ。内容の具体的検証です。