ピアノレッスンのヒント集

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楽曲と教材〜ピアノ教則本と練習曲の系統について

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教則本考察特集
版選びのポイント

ピアノの初歩・初級教材で使用されることの多いバイエル教則本や、練習曲集の定番であるツェルニーなどについては、個別に教材考察特集のページで述べてありますが、ここでは系統の説明を少々しておきましょう。

既にピアノ習っていたり、ある程度の年月弾いていて楽譜に親しんでいる人なら、このような教則本や練習曲の段階的なことも理解されているでしょうが、流れを確認してみることにします。

現在初歩や初級の教則本で習っている方で、「この先の教則本はどんなものなのだろう」と思う方も、このようなケースが多いという参考にご覧ください(推奨ケースというわけではありませんよ)。


うちの先生はバイエルじゃないから

「バイエルはあまり良くないらしいよ」なんて感じで、うわさ話のように思っている方もいるでしょう。それに対して「うちの先生はバイエルじゃないから、いい先生」といった単純なことはないとは思いますが。
バイエル教則本については、特集バイエルを考える1をお読みいただくとして、その先の系統を見てみましょう。

バイエルを主体に始まるピアノレッスンは、日本の伝統(?)では主に次のような教則本や練習曲の道筋で進んでいくでしょう。
左からやさしい順に並べてみると、

標準バイエルピアノ教則本  全音ピアノライブラリー
標準バイエルピアノ教則本
ツェルニー100番練習曲
ツェルニー100番練習曲
ブルクミュラー 25の練習曲 New Edition 解説付
ブルクミュラー 25の練習曲 New Edition 解説付
ツェルニー30番練習曲  全音ピアノライブラリー
ツェルニー30番練習曲
ご注意
教則本や練習曲の進行についての説明はあくまで一例で、初心者用に教則本の後によくあるような進行をあげています。このように進むと決まっているわけではありませんし、どの指導者もこのようにしているわけではありません。また、ツェルニー100番または110番とブルクミュラー25番などは、前後したり同時進行の場合や、どちらか一方の場合もあるでしょう。

バイエル教則本 → ツェルニー100番やブルクミュラー25番 → ツェルニー30番

あとは、ハノンなども併用しながら、ツェルニー40番・50番などの練習曲がどんどん続いていくパターンです。もちろん様々な曲も同時に入ってくるでしょうが、これは練習曲が常についてくる日本のピアノ教育の典型的パターンであり、生徒個人の要望や志向に合っているのか、良いか悪いかということ以前に、これしかないと思っているピアノ指導者も数多く存在します。
ですが、既にツェルニーについて1でも述べているように、こういった練習曲をがんばることは、趣味で楽しくピアノを弾こうと思っている一般のピアノ愛好家には、あまりに時間と労力を浪費してしまい、好きな曲を弾くことに専念できないと考えられます。

そこで、バイエルよりも良いものをといった考えから、様々なものが紹介あるいは登場するようになります。その代表格で比較的早くから日本に紹介されたものとして、エルネスト・ヴァン・ド・ヴェルド作のメトードローズ教則本があると思います。
メトードローズは、フランスの動揺などの親しみやすく美しいメロディーを使った初歩から初級用の教則本で、ヘ音記号も両手になったらすぐに登場。ひとつひとつの練習曲がきちんと題名がついた曲であり、バイエルよりは幾分すぐれたものだとは言えそうです。

ところが、メトードローズを使用した系統の先を見てみると…


行き着く先はやっぱりここなの?

では、初歩のピアノ教則本に、メトードローズを使用した場合に、進む道筋の一例を見てみましょう。
左からやさしい順に並べてみると、

新訂 メトードローズ ピアノ教則本(ピアノの一年生)
新訂 メトードローズ ピアノ教則本(ピアノの一年生)
ピアノの練習ABC
ピアノの練習ABC
ル・クーペ ピアノの練習ラジリテ
ル・クーペ
ピアノの練習ラジリテ
ツェルニー30番練習曲  全音ピアノライブラリー
ツェルニー30番練習曲

メトードローズ → ピアノのABC→ ル・クーペのラジリテ→ ツェルニー30番

指導者によっても異なりますが、このようになるケースも多いでしょう。
えっ!結局はツェルニー30番にたどり着いちゃうの?」と驚かれる方もいるかもしれませんが、そのとおりです。結局はツェルニー30番の系統に行き着いてしまうので、その手前の教則本や練習曲が少し違う程度です。しかも、ラジリテは正確にはツェルニー30番の手前程度ではなく、既にその領域に踏み込んでいて、内容も似たような純粋テクニック系の練習曲と言っていいと思います(ラジリテをやってからツェルニー30番へ進むと、進行が早いというメリットはあるかもしれませんが)。

もちろん、メトードローズをピアノを始める最初に使用したからといって、このように進む決まりはありませんし、その必要もありません。初級教則本を1冊終えたら、趣味でピアノを弾く人にとっては、指の練習曲の系統をずっと続ける必要性は薄いでしょうし、時々加えてもいいと思います。
しかしメトードローズを使用しているピアノ指導者が、一般のピアノ愛好家の人に「メトードローズで初歩の基本的なピアノ奏法は終えたので、この先は曲を中心にやりましょう」という方針かどうかは、わかりません。もしかしたら、「趣味であろうと専門であろうと、この先はツェルニー30番までは最低やるのが当然です」という方針かもしれないのです。少し先の段階まで考えている方は、ついているピアノの先生がどのような教本と方針なのかと、聞いてみてもいいでしょう。

ちょっとポイント
このサイトをご覧の方は誤解されないと思いますが、練習曲集を否定しているわけではありませんし、趣味の人には全く必要ないと言っているわけではありません。これらの初中級の練習曲達も、よいピアノ指導者の下で目的をもってしっかりと練習すれば、かなりの効果が期待できるでしょう。
個人的には、メトードローズの次に使用されることの多い「ピアノの練習ABC」などは結構使える範囲が広いものだとは思います。音階などを含めたテクニック練習曲集ではあるものの、1曲は短めであり、ほどよく使用すれば効果的で、趣味で弾いている人で「もう少し基本テクニックが欲しい」という人のために使用したり、大人の方にもやってもらうこともあります。(詳細はこちら⇒ピアノの練習ABCをご覧ください)。
もちろんこの場合も、生徒本人から練習曲必要性の希望があったり、こちらからの提案を生徒が受け入れたときに限りますが。

どこまでかは生徒次第

ここまでの説明で、だいたいおわかりいただけたでしょうか。上記の練習曲の進行は一つの例ですが、定番の路線は現実にも多い例でもありますので、ツェルニーへの道を避けられない人も多いでしょう。

指導者がせっかくバイエルは必須という先入観から開放されて、違う初歩教則本を使用していたとしても、その後は従来と同じであって生徒がピアノを嫌になってしまったら、意味がありません。たくさんの様々な曲を楽しんで弾いているうちにピアノが上達してきて、将来はピアノ専門の道へ進みたいという希望が出てきたのなら、その時点から「もっとテクニックをつけるためには、少し練習曲が必要になるよ」ということを理解してもらえばいいのではないでしょうか。

では、どうしてこのような道筋の進行が多いのでしょうか。
上で述べたように、これが当然だと思っているピアノの先生が多いからですが、理由としては目標からの逆算をすると、このようになるということだと思います。

この場合の目標というのは、日本では多くの場合ベートーベンのピアノソナタでありショパンやシューマンなどのピアノ作品と言っていいと思います。ショパンのエチュードまでは行けなくても、ベートーベンのピアノソナタのそれほど難しくないものなら、多くの人にとっては現実味のある目標ではあります。そのためには、ツェルニー30番くらいまでの系統はしっかりと全てやるというのが、多くのピアノ指導者の考えだと思うのです。
そして、ツェルニー30番に辿り着く前後の時期には、他にも下記のような様々な曲集を学ぶ人も多いでしょう。

ツェルニー30番練習曲  全音ピアノライブラリー
ツェルニー30番練習曲
ソナチネアルバム 第1巻 今井顕 校訂 初版および初期楽譜に基づく校訂版
ソナチネアルバム 第1巻 今井顕 校訂 初版および初期楽譜に基づく校訂版
バッハ/インベンションとシンフォニア (ハンス・ビショップ校訂)
バッハ/インベンションとシンフォニア (ハンス・ビショップ校訂)

ツェルニー30番とソナチネアルバム、そしてバッハのインヴェンションなどが、だいたい同時進行する場合が多いと思います。ソナチネアルバムを終えてからモーツァルトのピアノソナタへ、そしてベートーベンのピアノソナタへつながるという具合です。

これには一定の意味合いがあります。ツェルニーをしっかり仕上げることは、ベートーベンのソナタを弾くことを楽にする効果はある程度ありますし、いくつかのソナチネやモーツァルトを弾いてからベートーベンに入るのは流れとしてスムーズです。

しかし、趣味のピアノでベートーベンのピアノソナタを弾くのなら、そこに至るまでに順を追って全ての段階をぎっちりとやらなくてもよいのではないでしょうか。これら全てを弾くのは一般的にはかなり大変な作業です。 徐々に難易度を上げていくのは当然だとしても、適度に省きながらでもベートーベンはちゃんと弾けます。

また、このようにツェルニーへの道のりのケースは指の動きという点に絞る悪くはないかもしれませんが、それでもブルクミュラー25練習曲くらいの段階になると弾ける曲もかなり多くなってくるので、テクニック系だけではなく、いろんな曲を取り入れていくことも重要でしょう。有名どころでは教則本考察でも取り上げているギロック叙情小曲集などもありますし、日本の作曲家も様々な曲集がありますから、曲集まるごと全部を弾かなくても、随時弾いてみると音楽と技術の幅が広がります。

本当はどういった内容のピアノレッスンで、どの程度までのレベルと質を目指すのかは、習う側の生徒次第だと思うのです。やさしく編曲されたポピュラーを中心に弾きたい・ショパンを1曲仕上げたいといった希望もいいですし、練習曲をときどき取り入れたいという人もいるでしょう。
逆に趣味であってもツェルニー30番の系統もがんばって、限りなく指定テンポに近づけて弾きたいというのもいいと思います。

そうやってツェルニーの道を進んでツェルニー50番を弾いていたとしても、クラーマー=ビューローやモシュコフスキーやモシェレスの練習曲の方が効果的だと思うようになったりと、変化があってもいいのです。1本の道しかないと思っていると、窮屈ですからね。

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