練習曲の定番中の定番として、日本のピアノ教育界ではバイエルと並ぶベストセラーのツェルニーについて考えてみましょう。
ツェルニーにはご存知のように、多くの練習曲集が存在し、ピアノ学習者の非常に多くが使用します。その一方で、あまり音楽的ではない内容から、必要性を疑問視する声もあります。では、ツェルニーは必要なのでしょうか。必要なら、どういった人にとって必要性が高いのでしょう。
- ツェルニーについて1 〜30番練習曲の内容を簡単に確認しましょう。
- ツェルニーについて2 〜有効性と不満点をみてみます。
- ツェルニーについて3 〜使用ケースから使用上の問題点を探ります。
- ツェルニーについて4 〜どういった人にツェルニーは必要かを考えます。
- このコーナー内の表現では、ツェルニー30番練習曲をただ単にツェルニーと書いている場合もあります。特に断りのない限り、30番練習曲を中心に話を進めていますが、中には同程度の40番の内容も含めて書いている場合もあります。
- 内容は主にピアノ指導者が生徒に対して使用するときを想定していますが、ピアノを習っている方や独学の方にも参考になる箇所はあるでしょう。
ツェルニーの概要
作者について、簡単にまとめておきます。カール ツェルニーは1791年のオーストリアの生まれで、年代的にはウェーバーより少し年下でシューベルトよりも少し年配という位置づけです。
ピアノ演奏では大変な神童だったといわれていて、10歳で鍵盤楽器の当時までの主要作品はほとんど弾けたそうです。また何といってもベートーベンに師事していて一時期はクレメンティにも習ったそうですから、大変な経歴であり相当な実力を持っていたと思われます。
ですがツェルニーはピアニストというよりもピアノ指導者として活躍したようで、教え子としてはリストがいることで有名です。
ツェルニーはかなりの数の音楽作品を残していて、室内楽や協奏曲などもあり、今日でも変奏曲などはピアノのリサイタルでも演奏されることがある。
練習曲集は数が多く、100番練習曲・110番練習曲・30番練習曲・40番練習曲・50番練習曲・60番練習曲といった有名なものの他にも、8小節練習曲・左手のための24練習曲などもピアノ教育現場では使用されています。
一般的な使用事情
日本ではバイエル教則本の終盤に差し掛かった頃や後に、110番や100番を使用したり、30番に入るケースがかなり多く、初中級から中級くらいの練習曲として定着している。(このあたりの教則本の進行の系統については、教則本の系統についてをご覧いただければと思います)
30番を使用経験が最も多いと思われるが、専門的か趣味で弾いているかは問わないとすると、どれくらいの人が30番を最後まで終了しているかは定かではない。
また40番の使用状況は30番より割合的には幾分少ないと思われ、50番はさらに少なく、60番を使用している人はかなり少ないのではないかと思われる。これは他の練習曲が充実してきたことにもより、またピアノを専門的にやらない人にとっては、ツェルニーは負担になることもあげられる。
一般に30・40・50と段階的に難易度があがると思われていて、楽譜出版社の難易度表もそうなっていることが多い。当サイトの教則本紹介でもそれにならっているが、内容的にはそうでもなく、30番でも手ごたえのある練習曲や50番でも弾きやすい練習曲も存在している。
内容を確認
ここではツェルニー30番練習曲の大まかな内容を確認してみます。
曲の音型について
練習曲をいくつかのタイプに分類してみましょう。
音階系 | アルペジオ系 | 和音系 | 指練習や奏法や連打や動き系 | |
---|---|---|---|---|
曲番号別分類 | 6 8 9 11 14 16 18 21 23 29 30 | 4 7 10 15 19 25 | 28 | 1 2 3 5 12 13 17 20 22 24 26 27 |
大まかに4種類に練習曲のタイプを分類してみるとこのような感じです。指の練習系のものについては、もう少し細かく分類してもいいのでしょうが、おおよその傾向がわかればいいので、違う傾向のものも一緒にしてあります。
見ていただくとわかるように、「指をきちんと動かすことを目的」としたようなものと「音階」の系等が多く、次にアルペジオ系が多くなっています。これはピアノ奏法では指をしっかりと独立させて動かし、音階とアルペジオが基本であるという原則に沿ってつくられた練習曲集だということが、よくわかります。
調性について
次に調性の多彩さを見てみます。細かくわけると表が長くなるので、ここでは調号の数によって分けてみます。
ハ長調・イ短調 | #・♭が1個 | #・♭が2個 | #・♭が3個 | #・♭が4個 | #・♭が5個 | |
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#・♭の数別曲数 | 11 曲 | 7 曲 | 6 曲 | 3 曲 | 3 曲 | 0 曲 |
このようになっています。ご覧のように30番練習曲には#や♭が5個以上の曲はありません。しかも調号1個以下の練習曲が半数以上の18曲を占めています。この傾向は40番練習曲集などでも似ています。
速さについて
4分の4拍子の曲を基準とすると、1拍(4分音符)を160以上の速さで弾く指定の練習曲がほとんどです。中には1拍を200を超える速さ指定の曲もあります。
1拍に16分音符が入り、それが並んでいるとすると、かなりのスピード感ということになります。
以上のような内容から、ツェルニー30番練習曲は、音階とアルペジオを指を速く動かして弾くというピアノ基礎テクニックの徹底を目的にしているといえます。
このようなツェルニー練習曲の傾向を踏まえて、有効な点や問題点を考えていきましょう。
続きはこちら→ツェルニーについて2有効性と不満点へ。