ソナチネアルバムの版(エディション)選びについて、考えてみましょう。
初中級くらいからのピアノ学習者によく使われるソナチネアルバムの楽譜の選び方について考えてみます。
ここでは、版選びの基本的考えで触れた考え方を元に、信頼性と使いやすい版についてみていきましょう。
ソナチネアルバムとは?
ソナチネアルバムの楽譜について考える前に、そもそもソナチネアルバムとはいったいどのような曲集なのでしょうか。
ソナチネアルバムとは文字通り「ソナチネ」がたくさん入っている曲集ですが、もう少し詳しく言うとクーラウやクレメンティなどの古典時代の数人の作曲家がつくったソナチネが収められいる曲集で、出版社や版によって収録曲や曲の収録順序が異っていることもあります。
ソナチネは規模の小さめのソナタという意味で、本来はソナタよりも簡単という意味は無いのですが、クーラウやクレメンティなどのソナチネはハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンなどのソナタを学ぶ前の段階として使われることが多く、実質的にソナタよりも規模も小さめで難易度としては簡単ということになります。
ソナチネアルバム 原典版+校訂版
日本でもかなり以前からソナチネアルバムの国内版は存在していましたが、それらの楽譜は古い海外版をほとんどそのまま日本版に置き換えたような楽譜であり、何の検証も校訂もせずに解説のみを日本語にしているようなものだったので、クーラウやクレメンティのソナチネの原典版のような楽譜はほとんどありませんでした。
そこで、原典版または原典+校訂版のスタイルの楽譜(これについては版選びの基本的考えを先にお読みください)を使うとなると、研究の比較的新しい海外版を使う必要があったのですが、近年になって良質な全音から登場しました。
曲集名 | 内容説明 |
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ソナチネアルバム 第1巻 初版及び初期楽譜に基づく校訂版 今井顕 校訂 (Zen‐on piano library) |
今井氏の長年の研究によって、クーラウやクレメンティなどの古典時代の作曲家のソナチネの作曲された当時の本来の姿を楽譜にすることに成功していて、他の版に当然のように存在している「後から誰かが勝手につけたスラーやデュナーミク」はありません。 指使いも作曲者自身のものと校訂者のものを区別して書かれています。 装飾音符の奏法の解説や個々の曲の弾き方の参考解説も充実しているので、学習者はもちろんのことピアノ指導者も必須のソナチネアルバムと言えるでしょう。 |
ソナチネアルバム 第2巻 初版及び初期楽譜に基づく校訂版 今井顕 校訂 (Zen‐on piano library) |
第1巻と同じく原典版+校訂版のスタイルの良質なソナチネアルバムの第2巻で、巻末の解説も一層充実しています。 第1巻よりも少々難しいソナチネも入っているので、これらの曲をこの楽譜集でしっかり読みこんで弾くことができるようになれば、古典期のソナタを原典版で弾く力が身につくでしょう。 |
全音は以前からソナチネアルバムを出しています(今でも標準版として出ているので、今井版と間違えないように)が、この今井顕校訂版は以前の全音の標準版ソナチネアルバムとは全く異なり、原典版+校訂版のスタイルでつくられた楽譜です。
この楽譜のソナチネを見れば、この時代のソナチネがとてもシンプルな見た目の楽譜であり、他のほとんどのソナチネアルバムにあるような誰かが後から勝手につけたようなスラーやスタッカート、デュナーミクなどは本来は無いことがおわかりいただけると思います。
つまり、クーラウやクレメンティなどが作曲したままに近い状態の楽譜を、自分で読んで考えて演奏にしていくという作業を初中級の段階から身につけることをこの楽譜は提案していますが、それはモーツァルトやハイドンやベートーヴェン、そしてその他の多くの作曲家を原典版で弾く力を身につけるためにとても重要なことです。
現在国内で手に入りやすい国内版の良質なソナチネアルバムの決定版とも言える全音の今井校訂版ですが、少しだけ欠点があります。
それはソナタ形式で大事な「提示部」「展開部」「再現部」、「第1主題」「第2主題」などを、楽譜に書いてしまっていることです。
これらのソナタ形式の基本的なアナリーゼを楽譜を読んで区別して書き込むのも学習者の大事な作業ですが、これが楽譜に書いてあると考えることなくわかってしまいますので、これらは巻末の解説に書いてくれることを望みたいものです。
もう1つは、他のソナチネアルバムと比較すると価格が少々高い点です。
この楽譜の研究の価値を考えると単純に比較するようなものではないとも思いますが、ソナチネアルバムという、初中級の学習者や多くの人が使うことを考えるとあと少しだけ価格を抑えてくれたらという気がしないでもありません。
ソナチネアルバム 校訂版
上記の全音の今井版があれば、従来から各社で出しているような標準版のソナチネアルバムを使う必要性はほとんどありませんが、昔の海外版そのままに近い状態ではあっても、少しは工夫のあるソナチネアルバムもあるので、それらを紹介しましょう。
曲集名 | 内容説明 |
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標準新版 ソナチネアルバム I |
学研が最近出した新しいソナチネアルバムです。 基本的には従来からあるソナチネアルバムと大差は無く、昔からの海外版からの影響から脱していないのですが、楽譜はきれいに清書されているので見やすくなっています。 価格面でも優秀なので、既に全音の今井版を持っている指導者の2種類目の選択肢としていいかもしれません。 |
ソナチネアルバム 1 (解説付) |
カワイ出版のソナチネアルバムです。 この楽譜も基本的には昔の海外版をそのままつかったような楽譜なので原典版には近くないのですが、指使いは中田喜直氏が弾きやすいように考慮しているのが特徴です。 こちらも、既に全音の今井版を持っている指導者の2冊目としては使える楽譜でしょう。 |
これらの他にも各社から多くのソナチネアルバムが出版されていますが、だいたいは既に述べたように昔に誰かが勝手にスラーなどをつけてしまった海外版をそのまま使った楽譜であり、作曲者が作曲した意図から大きくかけ離れた楽譜となってしまっています。
そうは言っても、以前はそれらのソナチネアルバムがほとんどだったので多くのピアノ指導者も何の疑いもなくそれらをたくさん弾いて学んできたと思いますので、全音の今井版のような原典版+校訂版のソナチネアルバムを使って弾くこと、指導することに多少の抵抗感があるかもしれません。
しかし恐れずに試してみると、「このソナチネはこういった感じにも弾ける」「ここは従来版はスラーだったけど本当はスラーは無いのだからノン・レガート気味でもいいかも」などと、ソナチネの弾き方にもついてもいろいろと楽しさを発見できると思います。
そしてそれがより高度なソナタを弾く場合にも活きてくるので、ぜひ原典版に近いソナチネアルバムを使って欲しいと思います。
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