初歩教則本を終える次の段階のピアノ教則本として、このブルクミュラー25練習曲を取り入れている方はとても多いでしょう。
初級教則本がバイエルだとツェルニー100番の前後や同時進行で使用する例が多く、(そのあたりのことは、教則本の系統についてをご覧ください)初級教則本の決定版的な存在ですが、中身を検証してみましょう。
尚、この25練習曲よりも少し難易度が上のブルクミュラー18の練習曲については、こちらのページで取り上げています。
ブルクミュラー25練習曲Op-100の内容
概要
25練習曲の作者ヨハン フリードリヒ ブルクミュラー(ブルグミュラー)は、1806年のドイツ生まれですから、シューベルトよりも少し後、ショパンやシューマン、リストなどよりも数年先の生まれです。20代になってからフランスに渡り活躍したことになっていますが、今日演奏されるのはこの25練習曲が最も多く、他に18の練習曲と12の練習曲もありますが、楽曲が注目されることは少ないようです。
実は弟のノルベルト ブルクミュラーがいて、作曲家としてはこちらの弟の方がはるかに期待されていたようです。しかし、若くして亡くなっています。
25の練習曲は、日本で初歩教則本の後の段階のピアノ教則本として広く定着。主に小学生くらいの使用が多いですが、中学生や高校生から大人まで幅広い年代の使われている人気教則本です。
曲の長さと特徴
全曲が1ページまたは2ページの簡易な曲で、全てに題名がつけられていますので(題名の日本語訳は出版社や、同じ出版者でも出版時代によって多少異なっているようです)、音階や分散和音などが並ぶ純粋テクニック系の練習曲というよりは、25曲の小曲集という雰囲気です。
各練習曲をチェックする
25曲の中から、いくつか特徴があったり上達に効果的な練習曲をみてみましょう。各曲の日本語題名は楽譜出版者によって異なる場合がありますが、ここでは最も普及している全音版を例にしています。
- 1 素直な心
- 少しだけ和声の変化がある8分音符のレガートな曲です。指のとっては特に練習になるというほどの曲ではありませんが、こういった曲を流れをつかんできれいに弾けることは、ピアノ上達に効果的です。左右のバランスを変えてみるなど、工夫してみましょう。仕上げにペダルを入れるときにも、濁らないようにタイミングに注意します。
- 2 アラベスク
- 2つ目に出てくるのに意外にも完璧に弾くことがちょっと難しいアラベスク。この曲についてはワンポイント曲目解説アラベスクをご覧ください。
- 3 パストラル(牧歌)
- 8分の6拍子のこの曲想は、すぐに「パストラル」だと感じる方も多いでしょう。全体的に和やかな雰囲気を持った曲です。
特に難しい箇所が無く、この曲集中でも簡単な部類に入ると思いますが、8分の6の基本的なリズム感を大切にして弾きましょう。 - 4 子供の集会
- 3度の重音をレガートとスタッカートで弾く練習曲。こういった要素があると少し練習曲らしさもありますが、曲想はかわいらしい曲です。幼いうちやピアノ歴があまりに浅い人は苦労するかもしれないので、余計な力を入れずに。疲れたらリラックスが大切です。
- 7 清い流れ
- 右手でメロディーと伴奏を弾く重要な曲です。当然4分音符のメロディーラインを際立たせるように弾くとスッキリしますが、よく聴いてバランスをとりながら演奏したい。
こういった要素があると、様式としてはピアノ曲らしさもあるので、上達にも有効な曲です。 - 8 優美
- 右手の音型がターンのようになっています。コロコロっと軽やかなターンを弾くためには、各指がしっかりと、でも重くならないように動かなければなりません。ゆっくりと練習して動きを覚えてから、動きの質を軽くするように弾くといいでしょう。
- 12 さようなら
- 3連符が連続する音型で、右手はアルペジオや音階などを弾きますが、指の動きだけではなく、フレージングや曲の雰囲気づくりも大切です。左手がちょっと単純なところが、少し面白みには欠ける印象はあります。
- 13 なぐさめ
- 4分音符のメロディーラインが大切ですが、これが左手にも出てくるところがポイントで、重唱のようになっている箇所があります。ここでは最適なバランスを自分なりに奏者が見つけてみましょう。
- 14 スティリアの女
- ワルツのような雰囲気を持った曲で、スタッカート直後のレガートや装飾音、手が少し飛ぶように移動する箇所があるなど、ここまでの曲たちよりも要素が多いのが特徴です。
弾けるようになるには部分的なしっかりとした練習が必要ですが、全体を通した雰囲気も大事です。 - 15 バラード
- 左手に明確なメロディーがあるので、右手伴奏との組み合わせの練習には効果的な曲です。
だたし、曲調や和声感が幾分単純なので、表現やテンポにしっかりとした変化をつけないと、平凡な仕上がりになってしまうので注意が必要です。 - 19 アベ マリア
- 合唱のように4声で奏されるピアノ曲です。弾くこと自体は簡単で、何も意識しなくても響きのみできれいには聴こえますが、声部のバランスに少し気を使うだけで、聴こえ方は違います。
さらに縦の和音のみではなく、声部個々の横の流れをつかみましょう。それによって一層美しく弾くことができます。この曲集中では単独で演奏して最も聴こえ方が良い曲のように感じます。 - 20 タランテラ
- もっと難しい同様の題名の曲は多くありますが、この曲も簡素ながらもある程度のスピード感を必要とする曲です。
音符の長さも休符の長さも正確に演奏して、テンポ感が乱れないようにすることが重要です。練習では強弱を大きめにつけて、後から洗練させても良いでしょう。 - 21 天使の声
- 左右の手でひとつの流れを弾く曲です。これは説明するまでもなく、ハープのイメージに近いような曲で、感じたままに最後まで流れが止まらないように弾きたいものです。
なぜかこの曲で譜読みミスをしている人を見かけることがありますので、奏者、指導者ともに注意してみましょう。 - 24 つばめ
- 左手が右手を飛び越えるように交差して、低音の頭拍とメロディーの両方を弾く曲。この曲集の中ではテクニック的な側面のある曲なので、少し難しいと感じる人もいると思いますが、指のみではなく手が移動する曲を弾くことは、難易度が高い曲へ向けては大切なので、挑戦してみてください。
- 25 貴婦人の乗馬
- 25曲の最後の曲は沢山の要素が詰まっている仕上げの曲です。主題のスタッカートは、あまり鋭く突き過ぎない方が、この曲の感じが出せると思います。4声部の和音は最上声部のメロディーを出しながらも、他の声部の流れを聴き取るようにしましょう。音階系のところでテンポが変わってしまわないように、十分な練習が必要です。
曲集の特徴を踏まえたレッスンでの使用
実際のピアノレッスンではどのように使用していくと良いのでしょうか。
既に述べたように、難易度的には初歩教則本の後の初級教則本という位置づけでよいと思います。初級段階で身に付けたい技術や音楽感性が適度に盛り込まれているので使いやすいでしょうが、和声感が比較的単純な曲が多く、様式も古典的です。さらに曲想も全てが子供向けとまではいかなくても、曲によってはそれに近い印象です。
さらに、曲順は難易度とはあまり関係が無いので、使用者の年代によって弾く順番や抜粋での使用など、多少使用方法を変えてみるといいでしょう。以下に例をあげてみます。
小学生くらいだと、ほとんど全てを最初から弾いていく人も多いでしょう。この年代ではたくさん弾くことに抵抗感がないこともあり、多読のように弾いていっても感覚的にとらえやすい曲が多いとは思います。ただし、音符をなぞっただけでは音楽に聴こえない曲は注意が必要です。
中学生や高校生くらいでブルクミュラーに出会う人は、曲のつくりが単純すぎないもの、さらに技術が向上するような曲を抜粋で弾いても良いでしょう。ただし、乱読のように弾き飛ばすのではなく、個々の曲想をしっかりと把握して弾くことが大切です。
1番を弾いてみてから、7 8 12 13 14 15 19 21 24 25などから適宜選択していくのがお薦めです。
大人のピアノレッスンでも使用される方もいると思いますが、やはり抜粋でやるのが無難です。大人でもブルクミュラーを全て弾くと大変効果的だと提唱する方もいますが、曲想が子供的だったり和声感が単純な曲は避けたいところです。また、短い中に主題の繰り返しに飽きてしまう傾向もあるようです。
1番を弾き、あとは3 7 13 16 19 21 22 23などから適宜選択されてみてはいかがでしょう。特に19番は大人の方に人気のある曲です。もちろん、全曲をじっくりと学ぶことは実力がつきますから、大人の方でも余裕のある方は挑戦してみるのもいいでしょう。
補足説明
ブルクミュラー25練習曲は、それほどテクニック的に困難な要素はないものの、基本的な和声の流れと無理のない音楽性を備えています。各曲の曲想も豊かな曲集で、初級段階で出会うことにより、さらなる進歩へのステップにつながりますので、曲の仕上がり具合の目標は高めに設定して(年齢や実力にもよりますが)取り組むのがいいでしょう。
しかし、やはり今の感覚では少々単純すぎる印象は否めず、ピアノ指導者側が思っているよりも、実は生徒側にはそれほど人気が無いようにも感じています。
そうしたことから、曲集として全て弾くことを目標とするよりも、ひとつひとつを個々の曲としてとらえて、適宜選択して弾いていくのが良いのではないでしょうか。このくらいの難易度の曲集や教則本などは他にも充実したものが多くでているので、指導者にとってもブルクミュラー以外にも選択肢はたくさんあり、傾向の異なる曲集からもいろいろな曲を組み合わせたレッスンも良いでしょう。
また、ブルクミュラーは多くの出版社のものがありますが、テンポの指定が出版社によってかなり異なるので、指導者の方はできるなら2種類くらいの版を参考にしてみるのが無難です。古い版は速めのテンポ指定のみが書かれていますが、速く弾くことがそれほど必要ではない曲想の曲については、表示テンポに固執することなく、生徒の実力によって柔軟に対応した方が良いでしょう。
私のピアノレッスンでは、技術的な要素が重要な曲としては「24番 つばめ」が効果的だと感じていますし、音楽的には「19番 アベ マリア」が幅広い年代に人気でレッスンに使いやすい曲だと思います。その他の曲は生徒の趣向や適正などに応じて随時判断という感じですが、ご本人の希望で全曲を弾く人もいます。
また、もう少し実力が上の人には、この曲集を使って移調の練習などをするのも効果的です。
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