先生がバイエルを使う人だったらについて、ピアノを習おうとする生徒側からからも考えてみましょう。
自分がピアノを始めようとする前や、親が子供を習わせる前、すでにバイエルでピアノを習っている人が、このコーナーを読んで、バイエルに対する知識をや初級レッスンに対する考えを持っていたとしても、選んだピアノの先生がバイエルを何の違和感なく使用する人だったら、意味がありません。
その場合の生徒の選択肢は、いくつか考えられると思います。
違うピアノの先生にする
最も簡単であり効率がよい選択肢は、バイエルを使うピアノの先生を選ばないこと。もしバイエルを使用するとわかったら、丁寧にお断りをして、他の先生を探すことです。これが一番の解決方法であり、その後のピアノ上達のためにもなります。
なぜなら、バイエルを使っているということは、自分が教える生徒がどうしたらピアノが上達するかということを、しっかりと考えていない証拠でもあるからです。また、もし信念を持ってバイエルを使用しているピアノの先生だったら……それは残念ながらピアノの先生としては、あまり高いレベルではないかもしれません。
しかし、そうはできない場合もあるでしょう。
誰かの紹介〜例えばお子さんにピアノを習わせようとするとき、お子さんの友達のお母さんの紹介であったりしたら、初回の面談のときに、その先生がバイエルを使用するとわかっても、その場で断りにくいかもしれません。
他に紹介のケースとして、中学や高校で吹奏楽の管楽器をやっていて、そのうち音楽大学や音楽系専門学校への受験をしようとするときに、初めてピアノを習うことになったときもそうです。
この場合も、誰か知っているピアノの指導者を、例えば学校の部活の音楽教師などに紹介していただいたら、バイエルからはじめる先生だったとしても、断りきれないでしょう。
ピアノ指導者に教材の提案をする
ピアノの先生を変えるのが困難な場合、生徒側から教材の提案をしてみましょう。
「えっ!そんなことできないでしょう」と皆さん思うかもしれません。でもそうでもないです。事実、既に特集バイエルを考える3で書いたように、私はこれまでに「バイエルでレッスンしてください」という初心者生徒の提案を受け入れています。ですから、それと同じで習う側が別の教則本を提案しても、全くおかしなことではありません。
例えば、習おうとするピアノの指導者から「じゃあバイエルから」と言われたら、「私はこの本でピアノを始めたいのです」と、あらかじめ用意していた教材を差し出して見せましょう。
つまり、あなたが初心者(あなたの子供が初心者)で、これからピアノを習おうとする先生がバイエルを使用しないという確信がなければ、初心者用の教則本を準備していきましょう。初心者用の曲集のみを準備したのでは、「教則本が必要」と言われて、結局バイエルということになりかねません。
用意していくものは、年齢や好みによっても違うでしょうが、バイエルの欠点のような要素がなければ、それほど慎重になることもありません。楽器店の楽譜コーナーでピアノ初心者用の教則本を探して、中身をサラッとめくってみます。
同じような音型の連続や似たような曲が続くもの、ハ長調のみ、ヘ音記号がなかなか出てこないなどのタイプは避けましょう。
私が初級者によく使用するのは、グローバー教則本とアルフレッド教則本です。これらは続きものなので、1冊というわけにはいきませんが、かなり効果的です。アルフレッドはちょっと子供向けなので、高校生くらいには向かないかもしれません。
これにグルリットやバーナムなどを組み合わせで使用しています。グルリットは1冊で終わるタイプで、バーナムは楽しく指の動かすタイプのでシリーズものです。他にはメトードローズなども、多少は使用しています。ちょっと古い感じがしますが、数曲を抜き出しての使用です。
これらの他にも無数にありますが、選ぶときのポイントは作成された年代が、あまり古くないものがいいと思います。古くてバイエルと似たような傾向があったら、あまり意味がありません。
教材提案なんてできないという人に
そうはいっても、ピアノの指導者にこれから習うのに、「初心者の自分が初歩教材の指定や提案なんて、とてもできない」という人もいるでしょう。その時はバイエルからと言われたら、バイエルでピアノレッスンが始まってしまうわけですが、ポイントを気をつけていくといいでしょう。
要するに、特集バイエルを考える3で、私が生徒の親にバイエルでと言われたときの対処方法を、生徒の側から実践すればいいのです。
具体的には、必ず別の曲や曲集を併用するようにピアノ指導者にさりげなく言って、自宅での練習はそちらをメインにします。そして、バイエルは初見演奏の練習でもするつもりで、あっさりと練習しましょう。
しかし、バイエルの曲の完成度が低くてはいけません。先になかなか進ませてくれなくて、逆にバイエルを長期間練習することになりかねません。このバランスが難しいところですが、バイエルをメインにするのは避けたいです。
また、バイエルをやることにあまり気が進まないような態度をピアノの先生に見せたら、もしかしたら違う教則本に移行できるかもしれません(まあ、あまりないでしょうが)。
それでも、それでもバイエルだったら
しかし、この方法でもあくまでバイエルが主体やバイエルのみのピアノレッスンをしようとする人だったら、残念ですがやはり密かに別のピアノの先生を探した方が良さそうです。
バイエルが主体のピアノ指導者は、バイエルが終了してもツェルニー100番練習曲などの、バイエルと似たような傾向の次段階教則本へと続く可能性が大です。
こういった指導者は、現在の優れた日本の作曲家の初級曲集や、初見演奏や伴奏法・ロマン派の歌うようなピアノ奏法・アレンジやかっこいい近代曲・最近のJ-POPなどを、レッスンでは取り入れてくれない傾向がありますので、楽しく上達できるピアノレッスンとは、ほど遠いものになるかもしれません。
スポーツのコーチを例にしてみれば、わかりやすいと思います。過去に金メダルをとった人がコーチだとしても、その時代と同じ教科書を使い、同じ練習方法や作戦を指導したのでは、選手は勝てません。競技の水準は日々進化して上がっているのですから、常に最も良い方法を考えていく必要があります。
その点、ピアノのレッスン現場での教則本や曲目、演奏方法は、過去のものにすがりすぎかもしれません。もっとピアノの先生自身も自ら考え研究をしていく必要があると思います。
- 追記事項
- 大きな問題点として、バイエル○○番程度とか、バイエル併用曲集のような言い方があると思います。こういった言葉が存在するので、バイエルが権威のあるものや正統的な基準のようなものだと思う人もいるでしょう。
しかし、バイエル併用曲集とかバイエル程度などと書かれている曲集を、バイエルでピアノを習っている人が弾こうと思っても、なかなか思うように弾けないことや、時間がかかることも多いのです。理由はこのコーナーをお読みの方ならおわかりでしょう。
要するにバイエルのような単純音型のような曲は、たとえ簡単レベルの曲でも普通はありませんし、バイエルのような音型の編曲はしないものです。ですから、「バイエル○○番程度の併用曲集」を、そのバイエル○○番をやっている人は難しいと感じるのです。
ですが、これだけ定着しますし、初級者用などとは少し違ったニュアンスも含んでいるので、当分は無くならない言い方のような気がします。 - 追記事項2
- 「バイエルはソナチネアルバムなどをたくさん弾く前にとても有利な教本では?」というご質問をいただきます。
確かにクーラウやクレメンティなどの古典ソナチネと似た動きもバイエルには多いですから、それらを弾く前の練習にはなるでしょう。
しかし、バイエルでなくてもそれらの動きを含む曲や教本、曲集はたくさんありますし、ソナチネアルバムのみが目的でもありませんから、バイエルを積極的に使う理由にはならないですし、バイエルをやらなくてもソナチネアルバムの含まれる曲を多くの方がしっかりと弾けるようになります。