ピアノレッスンのヒント集

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楽曲と教材〜版選びポイント バッハの版(エディション)選び

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版選びのポイント

バッハの鍵盤作品の版(エディション)選びについて、考えてみましょう。

バッハの楽譜は昔は日本では入手しやすい楽譜が限られていましたが、現在最も多くの版が発売されている作曲家の1人と言えると思います。
ここでは、版選びの基本的考えで触れた考え方を元に、信頼性と使いやすい版についてみていきましょう。


バッハの版選びの考え方

バッハの楽譜は、昔の日本ではスラーや強弱などが入った校訂版を使うのが一般的だったので、それに慣れてしまっている指導者やピアノ学習者も多いと思いますが、昔に比べるとバロック時代の音楽とバッハの研究はかなり進んだので、今では原典版楽譜でバッハを勉強していくことが、非常に大切になっています。
ですが、指導者も学習者も原典版の楽譜のみでバッハを弾いていくことは、フレーズの感じ方などをいろいろと迷ったり戸惑いもあると思いますので、解説の詳しい学習版や質の良い校訂版を適度に参考にしながら勉強を進めていくことも、大変に良い方法だと思います。

つまり、バッハを弾くときにはまずは1冊の信頼性のある原典版または、原典+校訂版のスタイルの楽譜(これについては版選びの基本的考えを先にお読みください)を核として使いながら、適度に校訂楽譜などを参考にしながら学習するのが良いでしょう。
つまり、ピアノ指導者の場合には指使いを参考にするためにも、同じ曲の楽譜を最低限2冊(2種類)用意し、学習者の場合は2冊を用意するのが難しい場合には原典版を1冊にして、指導者にレッスンを受けながら弾いていきましょう。


インヴェンションとシンフォニア 原典版

バッハは鍵盤作品には様々な曲がありますが、何と言っても「インヴェンションとシンフォニア」は非常に多くのピアノ学習者が使っていて、市販されている楽譜の種類も多いので、上記のような版の選び方の例として考えてみましょう。

1冊を準備する場合でも2冊以上を使う場合でも、まず信頼性のある原典版を1冊準備したいものです。
現在は非常に多くの原典版が存在しますが、小規模から中規模の楽器店の楽譜コーナーでも比較的手に入れやすいものは、以下のような種類があると思います。

曲集名内容説明
インヴェンションとシンフォニア ウィーン原典版 42
インヴェンションとシンフォニア ウィーン原典版 42
海外と楽譜出版社の2社と日本の音楽之友社の合同作業によるウィーン原典版シリーズの楽譜は、ドイツ・オーストリー系のピアノ楽譜中心に非常に信頼性が高く、多くのピアニストや専門家に使われています。
このバッハに関しても、どのような資料を用いてつくられた原典版なのかといった説明や装飾音符の解説もとても詳しく、日本語で読めるのがうれしいですし指導者も学習者にも使える良質な楽譜です。
尚、ウィーン原典版のインヴェンションとシンフォニアに関しては、装飾音符についてなどの詳しい解説が無い版(少し安い)の「42a」もあり、選べるようになっていて、そちらを選択するのも良いでしょう。
バッハ, J. S. : インヴェンションとシンフォニア(二声と三声のインヴェンション) BWV 772-801/ベーレンライター社新バッハ全集版ピアノソロ
インヴェンションとシンフォニア/ベーレンライター社
原典版で定評のあるベーレンライター社のシリーズは、モーツァルトやバッハなどの楽譜で研究が進んでいて、正確性・信頼性と使いやすさで世界的にも注目度が上がっています。
最近は熱心なピアノ学習者や指導者、ピアニストなどで日本でも使う人が増えてきて、バッハの楽譜でも新バッハ全集の研究譜を元にした信頼性が大きな特徴です。
このコーナーでもインヴェンションとシンフォニアに関しては、以前はベーレンライター社の楽譜の日本語ライセンス版を紹介していましたが、本家ベーレンライター社から指使い付きのインヴェンションとシンフォニアが出版されているので今後はこちらを推奨したいと思います(日本語の解説はついていません)。

インヴェンションとシンフォニアは、他にも様々な原典版がありますが、信頼性と使いやすさを考えると、上記のような2点が筆者のおすすめする楽譜です。
中でも、インヴェンションを1からしっかりと学びたい学習者や、充実の解説も欲しいピアノ指導者には、ウィーン原典版が良いかと思われます。ただし、指使いが少し現実的には弾きにくいように書かれている箇所もあるので、他の楽譜をもう1冊程度参考にしながら使うと尚良いでしょう。
ベーレンライター社の指使いはそれほどクセもなく弾きやすいと思います。

では、他の原典版楽譜はどうでしょうか。
原典版というと、すぐにヘンレ社の原典版を思い浮かべる方も多いと思います。もちろんヘンレ版は原典版という存在を音楽の世界に定着させた元祖であり、バッハに関しても昔から信頼性があるとして、多くのピアニストやピアノ指導者に使われてきましたが、日本語訳されていないというのが残念ですし、他の版も研究が非常に進んでいるのでヘンレ版の優位性は無くなりつつあり、むしろヘンレ版は最新の資料から作られた他の原典版に遅れた内容である場合もあり、専門家の「とにかくヘンレ版」という意識も、以前ほど無いように思われます(ヘンレ版が悪いという意味ではありません)。
そうした事情もあるせいか、近年はヘンレ版も校訂者を新しくした新版を発売するようになりました(楽譜コーナーでは、最近はヘンレの旧版を安く売っているのも見かけます)。

他にも、日本の楽譜出版社から幾つかの原典版が出ていて、ドレミ楽譜のインヴェンションとシンフォニアは、見やすいレイアウトで使いやすい原典版だと思います。

音楽之友社の原典版長岡編も、見やすい楽譜という点では使いやすいと思いますが、指使いのつけ方が少し独特であること、解説や巻末の装飾音符の入れ方やフレージングの提案などが幾分古いという点があると思います。


インヴェンションとシンフォニア 校訂版

原典版を1冊用意できたら、次は原典+校訂版や、実際の演奏に必要なフレーズなども詳しい校訂版を用意して参考にしながら弾いていきましょう。

曲集名内容説明
J.S.バッハインヴェンションとシンフォニア  全音ピアノライブラリー
J.S.バッハインヴェンションとシンフォニア 全音ピアノライブラリー
全音からは標準版やハンス・ビショップ校訂版などの複数の校訂楽譜が出ていますが、この市田編は原典+校訂版のスタイルであり、フレーズの切れ目や和声の進行などを示していますがデュナーミクなどは入れていない版で、「信頼性」と「実際に弾くときのわかりやすさ」を兼ね備えた良版だと言えます。
原典版を持っていない方でもこの市田版のみでも学習できるので、1冊のみを持つ場合にも複数冊を準備する場合にも、ピアノ指導者も学習者にとっても有力な選択肢の一つでしょう。
バッハ インヴェンション 分析と演奏の手引き  分析:小鍛治邦隆 演奏の手引き:中井正子
バッハ インヴェンション 分析と演奏の手引き 分析:小鍛治邦隆 演奏の手引き:中井正子
ショパン社の校訂版は詳しい分析と解説が非常に充実した楽譜です。実際の演奏に大切なフレーズやデュナーミクの考え方なども参考にしやすいので、インヴェンションを学ぶ方やもう1度しっかりと勉強しながらレッスンをしたいピアノ指導者にも役立つ実用的な楽譜でしょう。
ただし、この楽譜のみに頼ってしまうのではなく、必ず原典版の楽譜を用意した上で併用したい版です。尚、これ1冊には2声インヴェンションのみが掲載されており、3声シンフォニアは別楽譜となっています。

上記のような楽譜がしっかりとした研究を元に校訂が入っている実用性の高い楽譜で、原典版と一緒に使う時に参考にしやすいと思います。特に全音の市田版は1冊のみを使う場合でも、信頼性と実用性を兼ねているので使いやすい楽譜でしょう。

カワイの版も、原典版スタイルの楽譜でありながら箇所によっては複数の指使いを提示するなど、親切心の行き届いた楽譜なので、複数冊持つなら参考にしたい楽譜です。

他の校訂版はどんな楽譜があるでしょうか。
バッハの校訂楽譜というと、まずブライトコップ社のブゾーニ校訂版を思い浮かべる人も多いと思います。日本語ライセンス版も出版されていて目にする機会も多い楽譜ですが、フレーズの考え方や装飾音符の入れ方、デュナーミクなど多くの面で少し古い印象があり、楽譜からバッハの音楽そのものを感じ取ることがかえって困難です。
研究の進んだ現在では、こうした楽譜は少しの参考にとどめたほうが無難なように思いますが、大ピアニストであるブゾーニの考え方を知ることができる楽譜ですから、複数冊を所持して比較するピアノ指導者の場合には、持っていても良い楽譜かもしれません。

同じような理由で、春秋社の井口版や、全音の標準版(タイトル「インベンション」の楽譜)も1冊か2冊しか所持しない学習者であれば選択肢には入りにくい楽譜であり、特にこうした楽譜1冊のみで弾くことは避けたほうが良いでしょう。
春秋社は園田高弘の校訂によるインヴェンションもあります(シンフォニアも別冊であります)。ピアニストの園田氏による実際の演奏法が楽譜上にグレーで細かく入っている版なので使いやすい版ではあります。ただし、装飾音符の入れ方に時々不可解な点がもあるので注意が必要です。

ピアノ指導者の中には、昔にこうした楽譜で勉強してきたという人も少なくないとは思いますが、これらの校訂版を鵜呑みにするのではなく、原典版や最近の研究の進んだ校訂版なども参考にしながら、バッハの楽譜を読む勉強して生徒のレッスンをしてもらいたいと思います。特に研究の古い校訂版1冊だけを生徒に購入指定させることのないようにしたいものです。

この他にも、バッハのインヴェンションとシンフォニアに関しては多くの校訂版や解説本が出版されているので、それらも適度に参考にしながら原典版楽譜と見つめてみるといいと思います。
バッハを弾く時には1冊の校訂版に頼り切って、バッハの音楽像が見えない状態で生徒に指導したり、弾くことにならないように気をつけることが大事でしょう。
特に装飾音符の原則的な入れ方を知らずに、生徒に対して「何でもいい」というような指導は好ましくありません。わかった上で「この箇所ではこの方法もあるし、この方法も良いと思う」と指導することと、よくわからないままに何でもいいのとは違います。


バッハには多くの鍵盤作品がありますが、他のバッハの鍵盤作品についても基本的にはこのページの「インヴェンションとシンフォニア」の楽譜の選び方と同じように考えて選択するといいと思います。
例えば、フランス組曲は全音の市田版が出ているので第1の選択肢として良いでしょう。

曲集名内容説明
J.S.バッハ六つのフランス組曲  全音ピアノライブラリー
J.S.バッハ六つのフランス組曲 全音ピアノライブラリー
新バッハ全集を元に市田氏が校訂している原典+実用版のスタイルの楽譜で、解説も少し詳しくのっています。
インヴェンションよりも装飾音符の数や種類が増えるフランス組曲ですが、装飾音符の入れ方の原則を元にした指使いがついているので学習者にも使いやすい楽譜となっています。装飾音符以外の箇所の指使いもよく考えられているので大変参考になります。

フランス組曲、イギリス組曲、平均律クラヴィーア曲集、パルティータなどは「インヴェンションとシンフォニア」に比べると、同じ原典版のシリーズや校訂者も同じシリーズが日本語版で存在するとは限らないので、楽譜の選択肢が少し狭くなるかもしれませんが、その時にはお近くの楽器店の楽譜コーナー見比べてみて、手に入れやすい楽譜の中からできるだけ良版を選ぶといいでしょう。

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