ピアノとオーケストラの共演(競演)のピアノ協曲のCDをご紹介しています。
CDレビューはピアノ協奏曲(当ページ)とロマン・古典・近現代の4ページに分けて見やすくしました。
ロジェ 卓越した協奏曲の演奏
ラヴェル:ピアノ協奏曲
ラヴェルの「ピアノ協奏曲ト長調」の録音といえば、ミケランジェリのものを代表版として推す人も多いでしょうが、今回はパスカル・ロジェの演奏で。
ピアノが入る出だしから、ミケランジェリのピアノとはかなり異なりますが、すっきりとした演奏をしていて、現代風なのは、やはりロジェの方だと言えます。難曲であり、少し整理がつかないような仕上がりになってしまうようなピアニストもいますが、ロジェの演奏にはそういった部分がありません。
「左手のためのピアノ協奏曲ニ長調」もおすすめです。暗い独特の響きからはじまり、曲調が変わっていく曲の性質をよく表しています。ただ、ラグタイム風な部分に入ったからのノリの良さは、あと一歩でしょうか。楽しさが伝わってくるようなピアニズムでは無いようにも思えます。
それでも、オーケストラの色彩感も素晴らしいので、非常に立体的に聴こえる演奏で、ピアノ協奏曲の楽しさは味わえます。さすがに、フランス物を得意としているモントリオールとデュトワといった感じでしょうか。
リヒテル 圧倒的スケールの協奏曲
グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲
20世紀を代表するピアニストであるリヒテルによる、グリーグとシューマンのピアノ協奏曲というおなじみの組み合わせ。グリーグは特に冒頭が有名な曲だが、弾くこと自体は難しくないせいか北欧を意識するせいなのか、深みのある名演というのは多くはないが、このリヒテルはオーケストラを引っ張っているようなスケールの非常に大きな演奏で、さすがの存在感。
シューマンの方もいい。この曲はピアノ協奏曲にしてはどこか地味になりがちで、演奏会でも少し盛り上がりに欠けてしまいがちだが、リヒテルとマタチッチの組み合わせでは、大きさとロマン的な演奏が見事に融合している。歌い方にも不自然さなどない。
気になる人がいるとしたら、普通のピアニストよりも遅めのテンポだろうか。リヒテルの演奏に引き込まれると、この少し遅めが気にならないだろうが、初めて聴くときに特にグリーグの方が遅いと感じる人はいるだろう。アシュケナージ 正統派なピアニズム
ラフマニノフ
ピアノ協奏曲第1~4番
ロシアの名ピアニストにして指揮者であるウラディミール アシュケナージ。現在はNHK交響楽団を指揮しているので日本でもかなり有名だろう。
これは、アシュケナージがピアニストとしての力量を十分に発揮していて、しかも協奏曲1から4番の4曲のお徳版。トリノオリンピックのフィギュアスケートでも多くの選手が使用していたラフマニノフのピアノ曲だが、、ピアノ協奏曲2番とパガニーニの主題による変奏曲が多かったように思う。20世紀の作曲のラフマニノフだが、この2番はとてもロマン的であり、19世紀の香りが漂う感じで、映画で使用されて有名になった。
しかし、ラフマニノフのピアノの魅力を最大限に伝えていて、このCDでもアシュケナージの演奏が最も楽しめるのは3番である気がする。ピアノという楽器の性能を引き出している曲であり、相当な難曲だ。
やわなピアニストは避けているかもしないが、そこはさすがにアシュケナージ。見事なテクニックで、表情に奇をてらったところもなく、大きな演奏でまとめてある。
例えば、冒頭の主題を歌いすぎたり、クライマックス近くに高音から下りてくる箇所などで、テンポに急激な変化を付けるピアニストがいるが、アシュケナージはそういったことはしない。曲の本質を王道な演奏で通しているともいえる。
だが、言い方を変えれば、特徴が薄いとも言える。個性が無いわけではないが、もっとセンチメンタルな演奏を好む人には、ちょっと物足りなさがあるかもしれない。ちなみに、今回のオリンピックスケートでは、中国の申雪ペアがショートで3番を使っていた。
そのほか、CDに収録されることが少ない、1番と4番も魅力だ。聴きやすさでは1番だが、4番は近年演奏される機会も増えてきて注目されているので、アシュケナージの演奏でその良さを味わってみて欲しい。
中村紘子 華やかに美しく
ショパン:ピアノ協奏曲第1&2番
言わずと知れた現在の日本を代表する国際的ピアニスト。彼女は年中リサイタルやオーケストラとの共演、そして数多くの国際コンクールの審査員として多忙な日々を送っているようです。 その中村紘子が最も得意としているだろうショパンは、さすがにこの協奏曲2曲でも華麗な演奏を聴かせてくれます。ただ派手な演奏をする人はたくさんいますが、彼女のショパンはただの華麗ではなく、どこか凛とした華があるような印象です。
1番の1楽章では、他の奏者があまり出していかない音を幾分だしていくなどの工夫があり、これがリズム感の良さを表しています。2番では、和音のバランスの絶妙なところが、聴く物を惹きつけます。どちらも「これがショパンなんだ」という納得を得られる演奏です。
そして何よりも技巧の確かさも重要な点です。この録音は若い時のものですが、数年前に彼女のショパンの協奏曲をステージ演奏で聴いたときも、技巧的な衰えは全く感じさせませんでした。ピアニストはどれほどの才能を持っていても、いずれはパワーや指の動きなどが必ず衰えていくものですが、それを並の男性ピアニストなんかよりもはるかに上のレベルを維持していく努力にも脱帽です。
ただ、ショパンは各個人の中にイメージができやすい作曲家でもあると思うのです。ですから、もっと野太い英雄的ショパンをイメージしている方には、ちょっと違うかもしれません。