モーツァルトやベートーベンなどの古典派時代のピアノ作品のCDを中心に紹介しています。
CDレビューは古典(当ページ)とロマン、近現代の3ページに分けて見やすくしました。
ルービンシュタイン 華麗なる世界
ベートーヴェン 月光・悲愴・熱情・告別
ベートーベンとソナタといえば、このコーナーでもご紹介しているように、まずはバックハウスを思い浮かべる方が非常に多いでしょう。ではこのルービンシュタインのベートーベンはどうでしょうか。
この録音当時、ルービンシュタインは既に70歳を超えていますが、完璧な技巧といわれていた彼も持ち味は衰えていませんし、若々しささえ感じるような演奏です。そして、完璧な技巧といっても、ガンガンを弾くような演奏ではなく、華美にならない程度に華麗であり詩的でもあるのです。
バックハウスのようなベートーベンが好みの方には、もしかしたら物足りないというか、もう少し骨太の演奏が好きかもしれないですが、現代のピアノ演奏の感覚では、このルービンシュタインの方が心にスッと入ってくるようにも思う方もいるかもしれません。
楽章によってはテンポは幾分早めであっさりとしていますが、少し自由さのあるロマン的な演奏でもあります。どれも素敵ですが、中でも月光と告別がお薦めです。
ピリス モーツァルト第一人者の貫禄も
モーツァルト:ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲つき」
2006年はモーツァルトイヤーということもあって、交響曲の全集や様々なシリーズものCDの他、ピアノソナタの全集物も多くでていますが、ここではこのピリスのモーツァルトをお薦めしたい。
ポルトガルのリスボン生まれのピリスは4歳で公開演奏をしたそうですから、大変な神童だったそうです。しかし現在のピリスには、そういったイメージを持つ人は少ないでしょう。どんなピアノ曲を弾くときも、浮ついた感じはしません。
彼女は古典の他、ショパンやシューベルトといったロマン派の演奏にも定評がありますが、何と言っても素晴らしいのはモーツァルトです。しっかりとした表現をしつつも、軽やかさも併せ持ったモーツァルトを聴かせてくれます。
そういった特徴はこのCDの11番のソナタ「トルコ行進曲つき」でもわかるでしょう。「トルコ行進曲つき」の1楽章などは、ただ単にサラサラと流れてしまうような演奏をするピアニストもいますが、ピリスは主題の変奏というこの曲の楽しさを伝えてくれるような演奏です。
ただ、テンポは普通くらい。モーツァルトのピアノ曲では速い演奏が好みの方なら、幾分の遅めに聴こえるかもしれません。これは良いか悪いかではなく、好みの問題ですね。
バックハウス ベートーベンのピアノ演奏の定番
バックハウス ベートーヴェン 四大ピアノ・ソナタ集
ベートーベンのピアノといえばバックハウスというほど定番中の定番であり、今も尚ベートーベン演奏家としての最高峰に位置するバックハウス。彼以降に絶対的と言えるようなベートーベン弾きといわれる存在のピアニストは、おそらく出現していないのではと思われるほどベートーベンピアノ録音の金字塔と言えます。音楽大学などの専門家の間で今でもベートーベンといったら、バックハウスであるし、私も子供の頃にレコードで聴いたベートーベンはもちろんバックハウスでした。
バックハウスの特徴というか、ベートーベン=バックハウスという印象なので、特徴という話も出てこないほどであるが、あえてあげるとそのしっかりとしたタッチ感と完璧さでしょうか。月光の終楽章や熱情なのでは強靭な演奏は、世界のピアニストの目標でもあるでしょう。
しかし、近年の研究がかなり進んで、ベートーベン像というのも変化してきたように思います。例えばガッチリとした深いタッチで、フォルテと対するピアノという強弱の演奏が主体だった以前に比べると、もう少し繊細な変化をつけるピアニストや、当時の楽器を幾分意識した軽やかなベートーベンというのも登場しています。そういった演奏はこのバックハウスの演奏に慣れてしまっている人にとっては、ちょっと奇異な感じを受けるかもしれませんが、ベートーベンのひとつのあり方ともいえるでしょう。
ちなみに録音状態はそれほど良いとはいえません。レコーディングの年月日を見ると私が持っているレコードとマスター音源はおそらく同じものですね。