ピアノレッスンのヒント集

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レビュー〜スーパーピアノレッスンをみる ロマン派ピアノ ダルベルト

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一流ピアニストが生徒にレッスンする様子を再現したようなNHKの番組

「スーパーピアノレッスン」

NHKスーパーピアノレッスン―ロマン派を弾く
NHKスーパーピアノレッスン―ロマン派を弾く

について、番組の感想などをレビューしていきます。
現在放送されているシリーズは、フランスのピアニスト「ミシェル ダルベルト」氏による、シューベルトやリストやシューマンなどの、いわゆるロマン派ピアノ作品のレッスンです。


「謝肉祭」  シューマン

ピアノリサイタルで演奏されることも多い「謝肉祭」が課題曲です。3回に分けて放送されました。生徒役は日本の池村京子さんです。

シューマンは数多くのピアノ作品を残していますが、「謝肉祭」は、その中でも最も人気があり、演奏される機会も多い曲のひとつでしょう。短くて個性のある曲が次々に登場する変化が楽しく、華やかさもあります。

放送 11-07 14 21

さて、池村さんの演奏はどうだったでしょうか。
彼女が「前口上」を最初に弾きはじめた時の印象としては、弱くて薄い演奏といった感じでした。これから謝肉祭が始まるというのに、勢いの無い出だしでは残念です。ダルベルトも「遠慮がちだ」と言っていましたが、そのとおりだと思います。
「ピエロ」は、ある意味シューマンらしい曲でしょう。横の線を大事にしなければいけないのですが、少し気を使えていない感じでした。
「オイゼビウス」は、よくまとまった演奏で、池村さんも弾きやすいような雰囲気に見えました。
「フロレスタン」は、同じ箇所をかなり注意されていましたね。2本の指でひとつの鍵盤を使ってしっかり音を出すように指示されていた箇所です。池村さんはダルベルトの指示に対する演奏の反応は、少し鈍いような感じも受けます。

「コケット」は、曲想をうまく表現できていない演奏でした。ダルベルトも「あなたの演奏は重い」と言っていましたが、これは指示によってかなり改善されたように思います。
「キリアーナ」も、ただ弾いている感じに近いのが少し残念です。
「ショパン」は、まずまずだと思います。ダルベルトの話にもあったように、シューマンの作曲したショパンですから、その違いはあるのですが、それを意識するのかショパンらしい演奏にするのかなどは、ピアニストの考え方にもよるでしょう。

「ドイツ風ワルツ」は、無難に弾けてはいますが、左手が少し良くありません。伴奏系でももっと響きを意識したいものです。
「パガニーニ」は、ダルベルトがイメージを伝えてからは、結構良かったと思います。レッスンも後半になり、池村さんの反応も良くなった印象です。
「休息」〜「ペリシテ人と闘うダヴィッド同盟の行進」は、やはりもっとピアノを鳴らして弾きたいところです。特に「行進」に入ってからはもっと華やかさが欲しいのですが、少し窮屈な演奏になってしまったかもしれません。

池村さんのピアノ演奏は、全体的に強弱の幅が狭いせいもあり、味が薄い印象です。おそらくこの「謝肉祭」を通して演奏すれば、それなりには聴こえるとは思います。 しかし、シューマンは強調する音はしっかりと出して、テンポ間にも気をつけ、そして歌う箇所は歌い、横の流れと和声感に配慮して、鳴らす箇所はピアノを芯から鳴らすように弾かないと、小さな演奏になってしまいがちです。
そういった意味では、もう一度譜面をしっかりと細部まで読み、そしてそれを自分の音楽して表現する必要があるように感じました。


「ピアノソナタ ロ短調」  リスト

リストはただ一つのピアノソナタです。30分を越える規模の大きな作品なので、5回に分けて番組が放送されるようです。生徒役はフランスのフランソア・ランブレさんです。

この曲は「ピアノソナタ」と銘銘されていますが、「厳格なソナタ形式を持った楽章を含む複数の楽章からなるソナタ」とは少し異なります。曲全体を通して広い意味でのソナタ形式のようなつくりになっており、「単一楽章の比較的自由なソナタ」といった感じでしょうか。
どこで一応の区切りというのは、意見の分かれるところかもしれませんが、3つに部分に大まかにわけて書いていきます。

第3部 06-10-17 10-24放送

第3部はフーガ的なところから終結まで、非常に難しいところが続きますが、ダルベルトは「このフーガはそれほど難しくもない」と言っていました。確かに複雑な絡み合いが多いフーガではなく、譜面も見やすい部分ではありますが。
ランブレさんへのダルベルトの指示は、まずペダルでしたね。ここでは明快さ、歯切れの良さが欲しいので、ペダルの多用はしない方が良いとのアドヴァイスでした。また、強調するフレーズを単に通り過ぎるように弾いてしまうことがあるので、指の使い方も含めて何度も繰り返し注意をされていました。

曲の最後に近くなると、強奏の連続がありますが、やはりランブレさんの演奏はもうひとつ物足りない印象です。ダルベルトも手の使い方から指示していたので、よほど気になったのでしょう。これくらいのレヴェルになると、ピアノを最大限にしっかりと鳴らした音を出すことが、本当に求められます。また、いつものようにテンポ設定の注意が多くありました。楽譜に書いてあるテンポをランブレさんは無視しているのではないのでしょうが、雰囲気のみで流れていく傾向は、やはりあるように感じます。

大曲なので5回に分けての放送でしたが、ランブレさんが終始アドヴァイスされていたことは、テンポについて、ペダル、そして楽譜の読みの深さです。どれもピアニストが演奏する上で基本的な事項ですが、一応弾ける段階になってしまうと軽視しがちなことでもあります。
また、ランブレさんの演奏は、悪くないテクニックを持っていることをうかがわせるものの、それを十分に発揮できていない印象も多く、曲の場面に応じた音の選択、そのためのテクニックということを、もう少し重視した方が良いのかもしれません。

第2部 06-10-10放送

通常「第2部」とされ、間奏的な感じのこの部分に関して、番組ではあまり多くの時間を使いませんでした。技術的にそれほど困難な部分が無く、大きな見せ場も少ないからでしょうか。また、次の第3部のフーガ的な部分を含むところに、より多くの時間を使いたいからだとも思われます。

この部分でも、ランブレさんへのダルベルトの指示は、まずテンポでした。甘い感じで弾いてよいところでテンポがゆれたとしても、一定のテンポ感はやはり保った方が良いということでしょう。
そして、基本的なことではありますが、楽譜に書かれているテンポについて、どのように設定するのかの話もありました。「ゆっくり」と「普通」と「速い」の3種類くらいしか無いと思いがちですが、これについても気をつけたいものです。

また、ターンやアルペジオを、曲想とテンポにあった入れ方をする指示がありました。これは多くの人がつい忘れがちなところでもあるので、他の曲を弾くときでも参考にしたい点です。

第1部 06-09-26 10-03 10-10放送

テクニック的にも時間的にも表現上も難しいこのソナタを、ランブレさんがどのような演奏をするのか注目していましたが、第一印象としては「かなり未完成な演奏」といったところでしょうか。自由な形式といってもソナタであるこの曲の、構成感があまり感じられません。
ご本人は「コンサートでも数回弾いた〜」と言っていましたが、ちょっとそんな感じはしませんでした。

それは一番にテンポの問題でしょう。ダルベルトが何度も、そしていつでも指示するのは、ランブレさんの一定では無い演奏テンポについてです。これは曲を知っている人なら誰でも感じると思いますが、やはりかなり定まっていないと言えます。
まるで、誰かのこの曲の演奏を聴き慣れていて、そのイメージが先行してしまって弾いているような印象です。楽譜の譜読みについてはしっかりとやっているとは思いますが、音符以外の楽譜の要素については、あまり気にしていないうちに暗譜してしまったのでしょうか。

例えば、テンポが定まらないのに、ラレンタンドを見過ごしてしていて、何度もダルベルトの指示が入っていたようなところに、譜読みの甘さが見られました。歌うところは、気持ちよい雰囲気で弾けているようには聞こえたのですが・・・。

ただ、曲の冒頭などをピアニッシモで弾いて注意を受けていましたが、ピアニストによってはそのように「何かの始まり」といった感じで、非常に小さく始める人もいるでしょう。


「ピアノソナタ 変ロ長調」  シューベルト

シューベルトが晩年に作曲したピアノソナタです。規模が大きい作品なので、番組も5回の分けて放送されています。生徒役は中国のインジア・シュエさんです。

第4楽章 06-09-12 19放送

技術的に少し難しさもあるこの楽章についてのダルベルトのイメージは面白かったですね。「逃げようとするが、壁が立ちはだかる」ですか・・・ちょっと考えたことはありませんでした。
そのイメージがこの楽章にふさわしいかどうかは、いろいろと意見があるところでしょうが、それくらい音楽についてストーリーを持つことは、表現の幅につながりやすいというのはあるでしょう。

シュエさんのこの楽章の演奏は、弾き込みが少し甘い印象でした。暗譜で弾いているのに、曲の中になじめていない感じで、表現のデュナーミクが狭く平面的な音楽になりがちです(シューベルトではそういった演奏をする人もいますが)。
そして、この楽章に限ったことではないのですが、譜読みの詰めがまだまだ甘い演奏で、音楽の持つ感情を捉えようとはしているものの、少々惰性的に流れてしまうようなところや、テンポの設定が無いままに弾いてしまう箇所もあるように思います。
これについては、おそらく収録までにこの曲を十分に準備する期間が少なかったと想像します。まずまず良いテクニックと音楽的な感性を持っているピアニストではあると思いますが、曲の箇所によっては丁寧さがキレの無いピアニズムにつながったり、読譜の甘さが惰性的な演奏になることもあったように思います。

第3楽章 06-09-12放送

軽快で動きの多い楽章です。
ダルベルトはシュエさんのはじめの演奏について、「やや鈍い」という表現で、もっと速く弾くように言及していました。ソナタの全楽章を通しての音楽構成を考えた上でのテンポ設定をするように求めているのです。
確かに、もう少しテンポアップした方が、より軽快に活発に聴こえるようには思います。その後にシュエさんが弾いたテンポは、まだ慣れていないとのことで、軽快というよりは少しあせりのようにも感じましたが。

ただ、シュエさんが最初に弾いたくらいのテンポで弾くピアニストもいるので、これも考え方次第です。曲のイメージや読譜上の解釈は、個々の差はあっても当然です。

もうひとつ「鍵盤を撫ですぎ」という話がダルベルトからありました。これはシュエさんの演奏に1楽章から感じていたことで、少々無駄な動作である上に、軽快さを失っている原因でもありそうです。

第2楽章 06-09-05放送

ダルベルトがシュエさんの2楽章の演奏テンポに関して適切だという話がありましたが、これは非常に大事なことです。この曲の2楽章を遅く弾くピアニストがいるのが事実で、ダルベルトも言っていたように、途切れるような演奏をする人もいます。
しかし、シューベルトに大事なのは流れです。この曲全体を通して大きな流れの中で演奏されるので、2楽章も極端に遅くなることない流れが必要ですね。

また、ダルベルトの深い楽譜の読みというのが、参考になる点だったと思います。シュエさんは2楽章も質の良い演奏だったとは思いますが、ダルベルトは曲の前後のつながりからの構成にまで気を配った演奏を求めていて、やはりそれは必要なことでしょう。特に、左手の低音をどのように弾くのかは、面白かったと思います。

第1楽章 06-08-22 29放送

全楽章を弾くと演奏時間はかなり長いピアノソナタですが、テクニック的には指を激しく高速に動かすような派手さは無いので、いかに音楽を深く追求するかが大事になる曲でしょう。響きのバランス勝負ということも言えると思います。

さて、この曲のレッスンを受けたインジア・シュエさんはいかがでしたか。
シューベルトのピアノソナタにとって重要な流れや音の響きにもよく気を使えているようでした。この曲は主観的な演奏もできる曲なので、感情のままに流されてしまうような音楽づくりも出来ますが、シュエさんは節度を保ったシューベルトを心がけていたように聴こえました。
また、シュエさんにはダルベルトの指示に対しての反応の良さがありました。フレージングや強弱などの注意点に対し、即座に演奏に表すことは上級レベルでも出来ない人は多く、それができているのは、素晴らしいことです。ただ、もう少し場合によってはもう少しメリハリや、和音バランスの変化が欲しいと感じる方もいるかもしれません。

ダルベルトの「この曲は既に音楽が始まっている」という言葉がありましたね。曲の出だしよりも前から静かに鳴り響いている音楽があって、それが聴こえてきた時点が曲の出だしという感じでしょうか。
他にも、曲に込められいる感情の捉え方に関しての講義がいくつかあったので、楽譜の読み方の上でも参考になりそうです。


「即興曲 第2番変ホ長調」  シューベルト

06-08-19放送

今回のレッスン曲はシューベルトの即興曲第2番でした。ピアノ学習者の定番曲でもあり、本格的なロマン派ピアノ作品に取り組む前にシューベルトの即興曲を弾く人も多いと思います。

さて、前回に引き続きレッスンを受けたセルビアのウラジミル・ミロシェビチさんはいかがでしたでしょう。
このシューベルトの即興曲はピアニストのレベルにとっては簡単な曲なので、音楽の構成や表現の細かい点、ペダルの加減などを少し調整するくらいのレッスンになったと思います。ダルベルトの指示も少なく、好みの差程度の注意点もありました。

ミロシェビチさんは作曲者の楽譜よりも、音楽自体にのって弾く傾向があるように見られます。ロマン派ピアノ曲には合っているようには思いますが、シューベルトには少し感傷的のようにも聴こえました。
例えば急にモヤモヤとしたピアニッシモにしてみたり、劇的に速くしてみたりといった表現がありましたが、表現に個性や好みがあるのは当然としても、ダルベルトもやりすぎの箇所には指示をだしていましたね。

ただ、即興曲ですからそういった感情的な雰囲気を出した演奏も悪くはないでしょう。シューベルトは古典派作曲家という分類もあり、どっしりと、またはあっさりとした演奏をするピアニストもいますが、ロマン的な香りを多めにだした演奏も良いと思います。

ダルベルトの演奏

落ち着きと適正な表情を持って弾かれたシューベルトです。もっと急速なテンポで弾くピアニストは大勢いますが、そういったことをすることもなく、音楽の味わい十分なピアノでした。
曲調が変わった時の間のとり方や左手の出し方と抑え方など、あらゆる面で学習者にもとても参考になったと思います。


「愛の夢 第3番」  リスト

06-08-01放送

今回のレッスン曲は有名なリストの「愛の夢 第3番」でした。リストのピアノ曲の中では比較的弾きやすい曲なので、おそらく一般の愛好家にも最も弾かれているリストの作品に入ると思います。

さて、今回生徒としてレッスンを受けたセルビアのウラジミル・ミロシェビチさんはいがでしたか。
ピアニストクラスの奏者にとっては技術的な困難がないので、余裕のある演奏だったと思います。あとは曲の構成感と細部を練り上げて、どのような演奏に仕上げるかということになるでしょう。

冒頭はダルベルトの指示が当たっていたように思います。ここをどれくらいの程度の表情で歌うかは、その後の展開にかかわってくるので、歌いすぎずに淡々としすぎずにメロディー線を弾くというところです。はじめにの弾きかたはメロディーのラインのとりかたが、考えてはいるものの微妙にはずれた弾きかたに感じました。

中盤にメロディーがオクターブの箇所では、もっと盛り上げた演奏でも良いようです。バランスを保っていたのですが、低音や内声を抑えすぎると迫力に乏しいので、曲が進むにつれて厚みと力感もあっても良いのではと思いました。

ただ、この作品はピアニストのリサイタルでは単独で演奏されるような大きなピアノ曲ではないので、メロディーの流れにまかせたような、このような演奏も良いでしょう。ピアニストにとっては自在にあやつれる曲でもあるので、演奏する場やプログラムのタイミングによって弾き方に多少の変更もあると思います。

ダルベルトの演奏

歌の流れで甘くなりすぎたり、盛り上げるところを劇的になりすぎることなく、均整のとれた愛の夢でした。カデンツァも速くなりすぎることもなく、しかも煌めく感じを出しています。
学習者のお手本にもなる演奏ですが、もっと濃密で盛り上がる「愛の夢」の演奏を望む人もいるとは思います。


お断り
当サイトはNHK(日本放送協会)とは何ら関係はございません(当たり前ですが)。また、「スーパーピアノレッスン」の番組やミシェル・ダルベルトの演奏をピアノの上達に良いからと、特に視聴するように推奨しているわけではありません。