ピアノレッスンのヒント集

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レビュー〜スーパーピアノレッスンをみる


ドビュッシーとピアノ曲―天才が名演奏家に直接託した技法と「こころ」の希有な記録
ドビュッシーとピアノ曲―天才が名演奏家に直接託した技法と「こころ」の希有な記録

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一流ピアニストが生徒にレッスンする様子を再現したようなNHKの番組

「スーパーピアノレッスン」

NHKスーパーピアノレッスン―フランス音楽の光彩
NHKスーパーピアノレッスン―フランス音楽の光彩

について、番組の感想などをレビューしていきます。
2006年4月〜7月にかけて放送されたシリーズは「フランス音楽の光彩」。フランスのピアニスト「ミシェル ベロフ」氏による、ドビッシーやラベルやメシアンなどの、いわゆるフランス物のレッスンです。


聖母の最初の聖体拝受  メシアン

06-07-11,07-18放送

2週続けてメシアンの「みどり児イエスにそそぐ20の眼差し」より、「聖母の最初の聖体拝受」でした。「みどり児〜」は、メシアンの代表的な作品のひとつであり大作です。技術的な難しさはもちろんのこと、曲に含まれる多くの宗教的で神秘性のある要素を読み解き、理解して演奏することが必要です。

さて、今回の生徒として登場した日本の倉澤華さんはいかがでしたか。
倉澤さんはメシアンの音楽に深く入り込んだ演奏をしていて、全体的に良い水準だったように思います。曲が持っている性質を非常に感じ、ピアノで表すことができていました。
ただ、もう一歩深く楽譜を読むこと、そしてテンポを守ることが必要です。感じたまま演奏してもそれなりに良いものはできあがるのですが、各フレーズの役割を明確に理解して、その上で構成していくような姿勢がもう少しあるとさらにいいと思います。

この曲はベロフにとって最も得意な音楽の一つであり、メシアンからも直接の教えを受けています。さらに、ベロフ自身も最もよく研究している作曲家がメシアンなのかもしれません。
そのようなことから、非常に細かい指示が出ていました。楽譜上からは想像が困難なことにまで指示があるのは、やはりベロフならではといったところでしょうか。イメージ的なことに関しては、必ずしもそれに従う必要な無いと思いますが、あのような神秘的な想像力や色彩感を深く持つことは、大切なことでしょう。

正確な拍ということで言えば、和音の連続があるところでは厳しかったですね。こういったところは、演奏する前に聴き慣れしていると、どうしても雰囲気だけでどんどん弾いてしまう傾向があるので、しっかり拍を数える基本の大切さであり、難しさでもあるでしょう。

メシアンが亡くなってまだ十数年しか経っていないので、作曲家自身の指導を受けた演奏家というのは世界に多くいます。作曲者自身と直接交流があったことが、そのピアニストの演奏にお墨付きを与えているわけではありませんが、メシアンの音楽くらいに複雑な要素が多く含まれていると、影響はあるでしょう。

ただ、あともう少しすると状況も変わってくる可能性はあります。作曲者が想像していたよりも、良い質の演奏が可能になることもありますし、時代とともに演奏のスタイルも変化するものだからです。

ベロフの演奏

メシアンのピアノ曲といえばベロフというくらい、得意というか手中に収めている曲なのでしょう。余裕のある演奏ながらそれを全面に出すことなく、空気感のあるような神秘的なものにしていました。
この曲に関しては、以前よりベロフの演奏が決定版的な存在であるので、他のピアニストと比較することも難しいですが。


前奏曲第2巻より「花火」  ドビュッシー

06-07-04放送

今回はドビュッシーの前奏曲集第2巻より「花火」でした。気が休まるようなところが無く、曲を通して集中力が必要とされる難しい曲です。ドビュッシーのピアノ曲の中では、一般的にはそれほど人気曲ではありませんが、高校生や大学生くらいで腕に自信のある人なら、挑戦したい曲です。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた日本の菊池裕介さんはどうでしたか。
前回登場したときもドビュッシーで「月の光」でしたが、それよりも今回の「花火」の方が意欲的にピアノ演奏に取り組んでいる印象でした。技術的な問題から冒頭から難所から少し危ないような演奏が続きましたが、一定水準の演奏を終わりまで保っていたと思います。

ベロフの指示は、曲のもつイメージについても多くありましたが、特にテンポの重要性がテーマだったように思います。こういった曲は、テクニック的な難しさに目を奪われてしまい、音符と鍵盤を追いかけるようなピアノ演奏になってしまうと、どうしてもテンポ感が崩れてまとまりのない演奏になります。
残念ながら菊地さんはかなりその状態に陥っていて、「花火」をよく知っている人は、おそらく慌しい演奏に聴こえたでしょう。

また、表現の点では、「何となく」弾いているような箇所が多いように聴こえ、菊地さんは確信をもっては弾けていないようにも感じました。このレベルの曲では、読譜の綿密さが求められます。

ベロフの演奏

この「花火」はピアニストによってかなり異なった演奏が聴けるのですが、ユニークさを売り物にしているようなものではなく、速過ぎずにまとめられたいて、聴き易い演奏だったように思います。
昔のベロフに比べると、ちょっと鋭さが薄いような感じはしますが。


前奏曲第1巻より「沈める寺」  ドビュッシー

06-06-27放送

今回はドビュッシーの前奏曲集の第1巻より第10曲「沈める寺」でした。指を高速で動かすような難しさはないのですが、前奏曲第1巻の12曲の中で演奏時間はもっとも長い曲です。人気曲でもあり、ピアニストのリサイタルでも、しばしばプログラムに登場します。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた日本の吉田友昭さんがどうでしたか。
前回登場したときもドビュッシーでしたが、今回も曲の持つ性格や響きをしっかりとつかんでいる様子が、演奏に表れていました。特にこの曲は響き勝負な感じがあるので、気をつかっていたようです。

ただ、素晴らしい響きの和音というところまでは、到達できてはいなかったかもしれません。ドビュッシーの曲だと和音を構成する音のバランスの僅かな違いで全く異なる響きになりますが、内声のバランスがあと一歩だったように感じました。また、テンポの指摘をベロフがしていましたね。こういったゆっくりの曲でも、基本のテンポ感を適切に守ることが重要です。

今回もベロフから曲の持つイメージの話がたくさんありました。それは単なる想像ではなく、曲の題材となっているブルターニュ地方の伝説と、曲を深く結びつけてのイメージづくりでしょう。ドビュッシーのピアノ曲を演奏する時には、重要な要素のひとつです。

ベロフの演奏

和音の響きがきちんと整理されていて、出す音は出すというベロフの演奏が展開されていたと思います。霧の部分とクリアな部分とのコンビネーションも良かったでしょう。得意のドビュッシーですから、余裕の演奏といった感じでしょうか。


「金の粉」  サティ

06-06-20放送

今回はエリック・サティの「金の粉」でした。遊園地のメリーゴーラウンドのような雰囲気を持ったワルツといった感じのピアノ曲です。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた、フランスのロマン・デシャルムさんはどうでしたか。前回登場したときはラヴェルの「夜のガスパール」だったので曲の難易度は最高レベルでしたが、それに比べると今回は余裕もあったことでしょう。

と思ったら、意外にもそんなに余裕の演奏という感じにも聴こえませんでした。イメージを確立しないまま弾いているようにも見えて、ご本人も「どう弾いていいのか〜」ということを言っていました。それに対し、ベロフはこの曲を「まじめすぎてもいけない」と何度も繰り返していました。

ベロフは、サティの時代のにぎやかなパリの遊びの雰囲気をもっと出した演奏を求めていたのでしょうか。確かにデシャルムさんの演奏は遊び心があるようなものではなく、少し淡々としたサティだったかもしれません。

ただ、この曲を今回のレッスンのように大きめの変化をつけて弾く人もいれば、シンプルにスッキリとまとめたように弾くピアニストもいるので、そこは考え方次第でしょう。演奏者の心が曲にのっていないのに感じを出そうとしても、かえって無理しているのがわかってしまうものです。

ベロフの演奏

同じようなメロディーを、少しずつ変化をつけて演奏していました。そうすることによってこの曲の持つ回転しているような雰囲気をさらに出しているように聴こえ、演奏のスタイルとしては良かったように思います。
ただ、「サティ弾き」の演奏するサティに慣れてしまっている人にとっては、少しイメージが違うかもしれませんね。


「鏡」より「道化師の朝の歌」  ラヴェル

06-06-07,06-14放送

「鏡」の5曲の中では、おそらく最も有名で単独で演奏される機会も多くのが、今回の「道化師の朝の歌」でしょうか。華やかであり、難しい曲でもあります。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた日本の宮崎明日香さんはどうでしたか。前回のフォーレの「舟歌」のレッスン時にも感じたのです、リズム感に問題があるでしょう。アクセントを付ける箇所と付けない箇所の判断や、テンポ感などが決まっていないような演奏です。それが彼女の中にある音楽性なのでしょうか。

表現上では、彼女は自分なりの表現をしようというものも感じるのですが、もう一歩表に出たようなもの華麗な響きと、曲の持つ内面性をじっくり聴かせるという部分の両方が、どちらも浅いように思いました。当然のことながら、ベロフの指示はかなり頻繁にあり、ついていくのが大変そうでしたね。

そしてこの曲は彼女にとっては、かなり技術的に厳しいようです。。鍵盤に指を置いてはいるものの、きちんと弾けていない箇所も多くあり、それが表現の上でも苦しいものになっていたと思います。テレビの企画での挑戦は素晴らしいことですが、演奏会など公開の場で弾ける最低のラインには、達していないはいないでしょう。

確かにこの曲は非常に難曲であり、ピアニストの中にも完璧に弾きこなしてはいないのに、リサイタルで弾いている人もいます。しかし、優れた技術力を持ってキレのある演奏をするピアニストが多い現代では、あいまいさのあるラヴェルの演奏というのは、苦しく聴こえる人も多いかもしれません。

ベロフの演奏

番組の都合で2回に分けて放送されたので、ベロフの演奏を通して聴くことはできなかったのですが、この曲に多くの人が抱いているイメージに近い演奏だったのではないでしょうか。特に2回目の放送の後半部分では、ピアノを鳴らしていたように感じました。ただ、前半が意外にも抑え気味だったようにも。


「こども(子供)の領分」より  ドビュッシー

06-05-30放送

今回も「子供の領分」からで、「小さな羊飼い」と「ゴリウォグのケークウォーク」の2曲を取り上げていました。どちらもピアノ愛好者にも人気の曲で、特に「ゴリウォグ〜」を弾く人はピアノ発表会などでも多いように思います。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けたフランスのヴェラ ツィバコフさんはどうだったでしょう。どちらもピアニストにとってはそれほど難しい曲ではないので、あとは表現をどのようにするのかの問題だと思いますが、「小さな羊飼い」の方は、音価が一定ではないのが気になりました。テンポがゆれることと、特定の音のみが長くなったり短くなったりは違うことですが、音価についてはベロフもすぐに指摘していました。
また、ベロフはフレーズ感にもついても言及していました。演奏では非常に大切なことで、どこまで一つのフレーズかを認識しているか、していないかで、全く異なります。あとは、表現の幅が少し小さめだったように感じます。

「ゴリウォグ〜」については、最初に弾いた時点で表現やペダルの使用箇所など、イメージがかなり違う印象でした。ベロフも実演で示していましたが、彼女の中でのこの曲の音楽づくりも、ちょっと幅が狭いような印象です。もう少し外へ向かってピアノの音を出していくような演奏が必要にも思います。

と言ってもツヴェコフさんはもちろん弾けていますし、好みの違いもあるので、あのままの演奏でも悪いということはありません。ただ、前回のレッスン曲「水の戯れ」に比べると、今回は小さめの曲だったので、弾きこみが甘いような印象はありましたが。

ベロフの演奏

まあ、さすがに上手いのですね。特に「小さな羊飼い」は響きと音楽のつくりは見事でした。
ですが「ゴリウォグのケークウォーク」は、それほどでも無かったようにも思えます。リズム部分などがもう少し派手な感じでも悪くないと思いましたが、これくらいで適度な表現だとも感じましたが。


「こども(子供)の領分」より  ドビュッシー

06-05-23放送

「子供の領分」は、ドビュッシーの比較的後期の作品です。「子供」とついていますが、子供が簡単に弾けるようなピアノ曲ではありません。
今回は「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」と「雪は踊っている」の2曲を取り上げていました。どちらのピアノ曲も音楽的にはこどもらしさの雰囲気がありながらも、少々テクニックを必要とする曲でもあります。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた日本の吉田友昭さんがどうでしたか。
第一印象としては、非常に良質のテクニックを持っているように思いました。この2曲とも、ピアニストレベルにとっては難しくはないのですが、音楽をよく理解していて合わせた指の使い方をしていて、余裕もありました。曲の感じも最初からよく伝わってきたと思います。

そのせいか、ベロフの指示というのも、曲のイメージ例の提示ということが、大半だったように思います。ペダルの指示などもありましたが、一応完成された演奏だけど、もう少しイメージを膨らませて、それに合った音を出して弾くということが中心のレッスンでした。ですから、生徒の吉田さんからも会話がありました。これはこれまでの生徒にはあまりなかったことです。

曲の随所でのベロフの物語的な解説も面白かったですね。ドビュッシーの音楽ではよくあることですが、イメージをかなり具体的に考えていて、曲のとらえかたの参考になった人もいるでしょう。

ベロフの演奏

もちろんどちらの曲も感じを良く表現した演奏でした。前の回の「月の光」と同様に、好きか嫌いかは聴く方の好みであり、上手い下手ということではありません。テンポのちょうどいい感じだったので、聴き易い演奏だったとは思います。


「ベルガマスク組曲」より「月の光」  ドビュッシー

06-05-16放送

ドビッシーのピアノ曲の中では「2つのアラベスク」の第1番と並んで人気曲でしょうか。リサイタルのアンコールなどで、単独で演奏される機会も多いと思います。一般のピアノ愛好者でも弾ける曲なので、弾いてことがある方も、これまでのレッスン曲に比べたら多いでしょう。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた日本の菊池裕介さんはどうでしたか。
一応はきれいに演奏できていました。専門的にピアノを勉強している人にとっては、特に難解な箇所はないので弾くこと自体には余裕はあると思います。後はどれだけ曲の持つイメージを演奏者自身が表現できるかが問題ですが、最初に弾いたときには、あまりのテンポのゆれに驚きました。こういった弾き方もあってよいとは思いますが、ベロフもテンポをしっかりとするようにと、すぐに指摘していました。

また、彼はこの「月の光」に(ドビッシーに?)、もっと淡いようなイメージを持っていたのでしょうか。全体的にモヤモヤとしたようなピアノの弾きかたでした。ベロフの指示があるとその箇所はしっかりとピアノを鳴らして弾くのですが、演奏が小さくまとまっている印象でした。

そして、ペダルの指示が多かったように思います。モヤモヤとした響きで、はっきりしない演奏をしていると、響きが濁っていても気がつかない人が多く、彼もそういった傾向を持っているようでした。
あと、指や手の動作が気になりました。感情を込めて弾こうとするためなのか、余計な動きが多い印象です。

ですが、こういった菊地さんのようなドビッシー演奏をする人は結構いるものです。きれいな響きや繊細な表現とは、霧がかかったような演奏や表情をつけすぎた演奏をすることではないのですが、そういうイメージを持っている人もいると思います。

ただ、この「月の光」に限っては、ベロフの指示よりもゆったりで、少し音量を押さえ気味の演奏もいいと思います。組曲の中の第3曲ですから、次の「パスピエ」をシャキッと聴かせると、組曲全体としてはまとまり感も出ます。そういった構成は個々のピアノ奏者の考え方次第でしょう。

ベロフの演奏

演奏の質というより、これはもう好みの差ですね。こういったベロフのような比較的早めの「月の光」よりも、もう少しじっくりと聴かせ音量も抑えた演奏が好きな人もいるでしょう。有名曲ですから、好きな演奏のイメージを各自いろいろとあると思います。
同じ曲を弾こうと思っている人によっては、鳴らす音や和音の響き、手の使い方などが参考になると思います。


「夜のガスパール」より「スカルボ」  ラベル

第1回と第2回 06-05-02,05-09放送

ピアノ曲は世の中に無数に存在しますが、ラベルの「夜のガスパール」はかなりの難曲として知られています。「オンディーヌ」と「絞首台」そして「スカルボ」の3曲から成り立っていて、どれも弾くだけでも難しいのですが、中でも「スカルボ」は一流のピアニストにとっても難関です。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けたフランスのロマン・デシャルムさんはどうでしたか。
彼は一応スカルボを弾けてはいました。今回の番組を見た限りでは、技術的に素晴らしいレベルとまでは言えなくても、可能性があるピアニストだと感じます。

しかし、収録の日までに、この曲を弾き込んで自分なりに練る時間が足りなかった印象です。今回はベロフの指示が細かくて、数小節進むとスグに止められて、模範演奏が繰り返されました。ロマンさんは1回目の放送のときに、「頭がパンクしそうです」と言っていましたね。あれだけいろいろと一度に言われたら、当然でしょう。
もちろん、この曲をあれくらいに弾けるだけでも凄いのですが、もう少し彼なりの演奏ができた状態までレベルをあげていれば、もう少し違った内容のレッスンだったかもしれません。

もうひとつ、ポイントとしてあげると、ペダルの使用です。ベロフはデクレッシェンドでペダルを効果的に使用するように何度か指示していました。曲の終わりの部分の、スカルボがフッと消えてしまうところもそうです。ロマンさんは、音量を落としていく部分ではペダルを控える傾向がありますが、これはベロフの指示が当たっているでしょう。ペダルは小さな音やデクレッシェンドでも上手に使用するのが望ましいのです。

また、演奏をもっと完成に近くしていくには、もっとイメージをしっかりとつくること、リズム感が崩れないことが必要です。単にここはクレッシェンドというような把握では、どうしても表現しきれないものです。特にこのスカルボのような複雑な曲では演奏することで精一杯になってしまいがちですが、だからこそ曲の世界観を自分なりに確立し、リズムを体にしっかりと持って弾かなければなりません。
そういったことも含めてロマンさんはまだ十分に曲を弾き込んでいないような印象でした。

ベロフの演奏

番組の時間の都合で、ベロフの演奏は2階に分けて放送されました。このようにされると違う曲に聴こえるから不思議(特に2回目で後半を放送したときに)です。
さすがに、技術的に不安な箇所はないでしょうが、それでもレッスンの時に模範として生徒の横で演奏するときに方が、良いように聴こえるのです。また、通し演奏では「キレ」が幾分欠けているようにも思えました。これは若い時のベロフのメシアンなどの録音と比べてしまうからかもしれません。


「舟歌4番」  フォーレ

06-04-25放送

フォーレの曲の中では最も弾かれているわけではありませんが、結構人気のある曲でしょうか。難曲というほどではないので、一般のピアノ愛好者でも弾ける曲だといえます。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けた、日本の宮崎明日香さんはどうでしたか。
最初に弾き始めたときにすぐに気になった方も多いと思いますが、左手の舟歌の伴奏リズム全くダメでした。あり得ないところに押すようなアクセントと間があり、ベロフも何度も指示していましたが、結局最後まで良い質にはなりませんでしたね。これはこういった曲を弾くでは非常に重要です。曲を弾くこと自体は難しくないということは、やはりこういったリズム感に最大限配慮できるはずです。

彼女はこの撮影の前に、いつもついている先生に一度もレッスンをしてもらわなかったのでしょうか?あの演奏をされては、普通の先生なら左手が良くないことを指摘するはずですが…指摘されても1度くらいで良くならないこともありますが。

他の部分ではどうだったかというと、実はあまりフォーレのピアノ曲に乗れていないような印象でした。ある種の自由さと少し抑え気味に弾くところなど、曲の中での和音の変化や旋律の流れを自在に楽しむような演奏には遠かったでしょう。もしかしたら、彼女はそれほどフォーレが好きではないのかもしれません。こういった企画の中で、止むを得ず弾いたのでしょうか?
でも、彼女のように、左手の伴奏に不自然な抑揚をつけているのに、右手メロディーが歌えないピアノ演奏というのは、日本人には多いかもしれません。そして、それはフォーレのような音楽ではかなり致命的と言えます。

ベロフの演奏

さて、肝心のベロフの演奏はどうだったでしょう。フォーレはもっと感情的な弾きかたもできる曲ですが、ベロフの表現はそこまで大げさにすることはなく、フォーレのピアノ曲の良さを響きで伝えていたような演奏だったように思います。
私は結構いい感じの演奏に思えましたが、フォーレ好きの方の中には、ちょっと違うな〜と思った人もいるかもしれませんね。


「水の戯れ」  ラベル

第1回と第2回 06-04-11,04-18放送

ラベルのピアノ曲中でおそらく最も有名な曲でしょう。演奏をするには余裕で弾けるくらいの高度な技巧を持ち合わせていないと難しいですが、この曲を弾こうと思う人は普通はそれなりのレベルの人だとも言えます。

さて、今回の生徒としてレッスンを受けたフランスのヴェラ ツィバコフさんは、どうだったでしょう。彼女はこの「水の戯れ」をよく弾いていたと思います。困難な箇所も指の動きが鈍るようなことはなく、レッスンを受ける前の状態の演奏でも、一応は人前で弾ける(この曲をあまり聴いたことがない人が聴けば、「こんな感じかな」と違和感がなく聴けるという意味)程度には仕上がっていたように思えます。

ですが、隣でベロフが弾くと違いがかなり目立ちますし、曲を良さを最大限に表現できていない印象ではありました。簡単に言うと、演奏が小さくまとまってしまいがちで、ベロフの指摘も第1回分・第2回分の放送ともに、そのあたりに集中していたように思えます。

特に、もっと出して弾く音は、しっかりと響かせて出していくことをベロフは何度も指示していました。ご覧になった方は感じたと思いますが、指示された後の彼女の演奏は違いがでていました。ですが、弱く演奏するときにモヤモヤとしてしまうことも多く、ここも何度も指摘されていました。

もうひとつ、彼女におそらく出来ていないことは、「水の戯れ」の始まりから終わりまでの曲の完全な設計図の確立です。細部の楽譜の読み込みも甘いので、何となく通り過ぎてしまったり、遅くしてみたりという部分も多くありました。
ですから、一箇所を指摘されて多少改善されても、他の箇所では従来の彼女の演奏をしてしまうので、また指摘を受けてしますのです。ベロフは曲の水のイメージを完全に持っているので、これは大きな違いです。

番組的には、生徒の水準としてはちょうどよかったとも言えます。一応弾けていないとテレビレッスンの番組として成り立たないですし、指示にも答えられません。このシリーズはいくつか拝見しましたが、特にモーツァルトの時には、水準が低すぎて首を傾げたくなるようなレベルの生徒もいて驚いたので、今回は生徒として登場する人の選抜をしっかりとやってくれているのでしょうか。

ベロフの演奏

さて、肝心のベロフの演奏はどうだったでしょう。番組終わりに流れましたが、実はレッスン中に模範として弾いていた時の方が、なぜか輝きがあったようにも思えました。昔のベロフのドビッシーのイメージを持って聴いてしまうと、ちょっと推進力が足りないような印象は否めませんでしたが、ピアノの音そのものに関しては、あの場所での音の録音の仕方があまりよくなかったのでしょうか。

といいますか、ベロフはフランスものが代表的なレパートリーですが、ラベルはあまり弾かないと思っていました。以前にラベルのピアノ曲について、かなり否定的なニュアンスのコメントをしていたので、今回のスーパーピアノレッスンのシリーズに、「水の戯れ」があったときは、ちょっとした驚きでもありました。
考え方が変わることもありますし、以前の発言も弾かないとか好きではないという意味ではなかったのかもしれませんが。


お断り
当サイトはNHK(日本放送協会)とは何ら関係はございません(当たり前ですが)。また、「スーパーピアノレッスン」の番組やフランスピアノ曲のミシェル・ベロフの演奏をピアノの上達に良いからと、特に視聴するように推奨しているわけではありません。