ピアノを演奏するときに必要不可欠なペダルについて、整理してみましょう。
現在のピアノは右の図のように、3本のペダルが装備されているのが普通です。
一般に、右ペダルをダンパーペダル、左のペダルをソフトペダル、真ん中のペダルをソステヌートペダルと呼ぶことが多いでしょう。
グランドピアノは当然3本ペダルですが、アップライトピアノの上位機種(中位以下の機種は真ん中の役割が違う)や電子ピアノでも、一応同じような効果を狙ったペダルが装備されています。
ここでは、3本ペダルの役割を、簡単に整理してみましょう。
- お断り
- このコーナーはピアノ演奏時のペダルの使用方法ではありません。一般的な事柄を簡単に述べたものです。
右のペダル
右のペダルは、ダンパーペダルや強音ペダル、ラウドペダルと呼ばれているものです。ピアノを弾いたことのある方には説明はいらないでしょう。要するに、ダンパーという部分がピアノの弦から一斉に離れたままになるので、鍵盤から指を離しても弾いた音が伸びたまま(弦が振動したまま)になります。
当然のように、3本のペダルの中で最も使用頻度の多いペダルです。「ここはペダルを入れて弾きましょう」となどと言うとき、通常はペダルというのは右ペダルのことです。
楽譜上でも特別な断りがない限り、ペダルマークは右ペダルです(上図「楽譜のペダル指示」)。Aがペダルを踏む箇所、Bが離す箇所です。レッスンで楽譜に手書きするときは、単にPと書くこともあります。
楽譜の(作曲家の)指定した箇所以外にも、ピアノ演奏者は任意でペダルを使用します。どこにどれくらいペダルを入れるかの判断は、最終的には奏者自身にあります。よく耳で確かめて踏みましょう。
右ペダルで重要なのは、踏むタイミングと深さです。踏み変えるタイミングが悪いと、直前に弾いた音が混ざったまま濁った響きになりますし(そういった音楽や効果もありますが)、深さを調節しないと、いつも同じような響きになります。
また、電子ピアノも右ペダルは同じような効果がありますが、生のピアノのように多くの弦が共鳴しないので(そういった効果を出す工夫はされている機種もありますが)、似たような効果はなかなか出ません。普段の練習が電子ピアノの人は生ピアノで弾いたときに、思った以上にペダルによって音が混ざっているような印象を受けると思います。
- 右ペダルはバッハやモーツァルトでも使用します。バロックや古典はペダルを使用しないものと誤解している人がいますが、常にいっぱいに踏んで響かせるのではなく、状況に応じて工夫してみましょう。
- 電子ピアノのペダルは踏む深さで響きを調節できる幅が一般的に狭いようですが、最新の上位機種だとかなり改善されている印象です。
左のペダル
左のペダルは、ソフトペダルや弱音ペダル、グランドピアノではシフトペダルとも呼ばれるものです。グランドピアノでは使用すると、ハンマーが打弦の位置をずらして3本を2本に、2本なら1本にすることで、音を弱めます。音を弱くするというよりも音色がかなり変化するのがわかるでしょう。アクションが右に移動するので当然ながら鍵盤の位置も横に少しずれます。
アップライトピアノも左ペダルはソフトペダルですが、打弦の本数は変わりません。ハンマーが少し弦に近くなることによって音を少し弱める働きがありますが、音色を変化させないので弱くなった気分のような感じで、思ったよりも効果は薄いでしょう。ただし、タッチの感触は幾分変化して特に同音連打が弾きにくくなります。
楽譜上では、una corda(ウナ・コルダ、略してu.c) がソフトペダルを入れる箇所で、tre corde(トレ・コルデ、略してt.c)で離します。奏者自身の判断で指定以外にも使用します。
もちろん、右ペダルを併用することも多いでしょう。響きを確かめながらうまく使用すると、演奏効果を大変あげることができます。
ソフトペダルをほとんど使用しないピアニストもいます。少しモヤモヤとした響きになるのを嫌い、どんなピアニッシモも鍵盤上と右ペダルで調節するのです。これもひとつの考え方です。
真ん中のペダル
真ん中のペダルは、ソステヌートペダルやサスティンペダルと呼ばれるものです。主に特定の音のみを伸ばしいたい時に使用します。例えば低音の1音弾きソステヌートペダルを踏んで伸ばしておき、他の音を両手で普通に弾く方法などです。
楽譜上での指定は非常に少ないのですが、pedale sostenuto(略してp.s.)と書く作曲者や校訂者もいます。
ソステヌートペダルに関しては作曲者の指定がない限り、つまりは全く使用しないというピアニストもいます。特に日本では使用方法を教えない指導者が多く、「ソステヌートペダルは特殊なペダルで、通常は使用しない」を言う人もいます。
しかし、それは全く違います。右ペダルも左ペダルも最終的には奏者が使用の度合いを判断するのと同様に、ソステヌートペダルの使用も作曲者の指定ではなく、ピアノ奏者が積極的にするものです。普通のピアニストでは主にドビュッシー以降の近代・現代曲で使用頻度が多いでしょう。ドビュッシーの「ピアノために」のプレリュードなどで、試してみてください。
もっとその効果を実感しているピアニストは、非常に積極的にこのペダルを使用します。バロックや古典・ロマン派のピアノ曲でも、実に上手くソステヌートペダルを入れるのです。機会があれば、リサイタルでピアニストの足元を見ながら、演奏を聴いてみるといいと思います。
- 新しくないグランドピアノは真ん中のペダルが無く2本ペダルのものもありますが、現在では2本ペダルのピアノは少なくなってきたでしょう。グランドピアノ購入の際には中古でもできるだけ3本ペダルのピアノを購入するようにしましょう。
- アップライトピアノの真ん中のペダルは、ほとんどのピアノで音を小さくして練習するためのマフラーペダル(ミュートペダル・消音ペダルまたは、弱音ペダルなどと呼ばれる)です。
しかし、ヤマハの最上位機種や上位機種のアップライトピアノは、真ん中のペダルはグランドピアノと同じようなソステヌートペダルになっているアップライトピアノもあります。この場合、マフラーの機能は別の場所にハンドルでついています。 - 電子ピアノも3本ペダルなら真ん中はソステヌートペダルがついています。生ピアノと同等とはいきませんが、似たような効果は得られます。
知っておくことが大事
普段は右ペダルしか使用しない人も多くいるでしょう。楽しくピアノを弾いている分にはそれで間に合うと思います。しかし、表現の幅と奥行きを考えると、左や真ん中のペダルも積極的に使用していくことになると思います。3本のペダルを同時に使用することもあるのです。
右ペダルに関しても、踏みの深さでどれくらいの響きを得るかといことを、全く意識していない人も多くいます。ある程度の難しい曲を弾いている人でもです。極端な例だと、ピアノを10年以上も習っているのに、右ペダルはいつもいっぱいに踏んでいて、深さで調節することを知らない人もいました。
ペダルに意識が向けられないのは、ピアノという楽器が、鍵盤をミス無く弾くということに意識が集中しがちな楽器だからかも知れません。確かに鍵盤を弾いて音を出すのは指ですが、足のペダルで響きをつくっているということを、常に意識して演奏したいものです。